2021年7月、ベルビアでWLYとのコラボイベントを成功させ、翌8月には古着屋「LAGOM」をオープンさせた向井啓祐さんをゲストにお招きしました。オープンから1年が経とうとしている今、LAGOMの運営はどうなっているのか。またアパレル業界が抱える課題と古着のポテンシャルなどについてもお話を伺いました。
憧れのアパレル業界に入って見えた現実と課題
でも実は入りたいと考えていた会社に3回も落ちたんです。そのころのファッション業界の面接って「君ダサいね、センスないね」って普通に言われるようなところでした。4回目でやっと入社できたときには洋服の知識もないし、自分はおしゃれでもない、服屋としての自信が全くない状態でした。入社してからも売り場に立たせてもらえない。裏にいても検品などの業務も回してもらえないという厳しい状態が半年くらい続きました。
でもここでアパレルを離れてしまったら何事もからも逃げる人生になると思い、失うものは何もないからゼロからやろう、やるからには認められる仕事をしようと接客や服について徹底して勉強しました。それから1年で個人売りの業績で全国1位になります。そして、それをきっかけに東京に異動になりました。
東京に出てみて驚いたのが、東京のお店の人たちは接客をしないんです。自分たちが売っているものを格好いいと思っているから、黙っていてもお客さんが主体で服が売れていく。
これは違うと思ってセールスコーディネーターという役職につきます。各店舗の接客スタイルや意識の部分をかえていく、業績が上がったら異動する、ということを繰り返していました。ですから私がいるお店はいつも売れていないお店やモチベーションが下がっているお店ばかり。ずっと売れていれば楽しんですけどね。売れたらすぐ異動なので、私の心もだんだんと崩れていって、大きな病気をして倒れてしまいました。そしてこのとき初めて、この仕事のやり方では30過ぎまで続けられないかもしれないと考えたんです。
そんな時たまたま出会った人にそのアパレルのキャリアを茅野で生かしてくれないかと持ちかけられました。それを聞いて「もうそれしかない」と思ってすぐに決めて移住してしまったんです。
そうしてできたのがLAGOMというお店です。合同会社HISOCAという会社を立ち上げまして、その中にLAGOMを設立しています。メンバーは4人です。そのうちの1人が私に上記のように言って私を茅野に連れてきた人でもあります。
4人それぞれに得意分野がありまして、私が店舗運営と接客。1人がバイヤー、WEBマーケティング、そして会社監査と経理という感じでやっています。
正直なところを言ってしまうと、接客や店を作り上げることには自信があったので、自分のお店を開くのであれば場所はどこでもよかったんです。たまたま声をかけてもらったので、ここにしただけなんです。
LAGOMはどんなお店なのか?
一言でいうと「古着屋っぽくないお店」です。
私の中では洋服屋として考えていますので、洗練された店であることが重要だと思っています。古着って通常特有の匂いがあるんですがそれが一切しません。特に女性のお客様は敬遠しがちなのでそこは気を遣っています。海外のきつい洗剤の匂いとかもしません。
RAGOMの運営は①接客、②イベント企画③SNS訴求の3点から成っています。
まず①接客ですが、古着というとヴィンテージのものに価値があるという風潮がありますが、LAGOMに古いものは一切ありません。20〜30年前ほどの「レギュラー」と呼ばれるもので、そこまで価値のないものを置いています。「この形がいい」「ここのデザインがいい」「このブランドがいい」っていうマインドを持って買い付けをしているんです。そうすると値段も安くてものがいい。こうだからいい、これから古くなってレアになっていくからいいといった接客ができます。接客が主体と考えているので、通販はやっていません。完全に時代に逆行していますが、それでも売り上げが伸びています。
次に②イベント企画です。月に2回週末にキッチンカーや他のブランドさんをLAGOMに呼んでイベントをしています。
来ていただくお店からは出店料は取っていません。そうしたお店やブランドにきてもらうことでお店の中に変化が生まれることが狙いだからです。もう一つにはそのお店やブランドのファンの方がLAGOMに足を運んでくれれば十分だと思っています。
最後に③SNS訴求。こちらは主にインスタやYouTubeでやっています。毎週水曜日にインスタのリール動画を流して、主にはイベントの告知をしています。いつ何が行われているのかを30秒に詰め込んで流しています。そのほかにも服の豆知識やスタイリングといったものを流して、目にしたお客さんに「LAGOMに行きたい!」という衝動が起こるようにしているんです。
そうするとあとはインスタのアルゴリズムが勝手にこれは茅野市で優位性のあるものと判断して、お客様に見せようとする。これは広告費をかけるものではなくて勝手にそうなっていくわけです。でもそのためには毎週のように会議をして、どういった内容であげるのかを計画的に決めて、効果の検証もしています。そのほかにも、なぜ今日このお客さんが来て、滞在時間がどのくらいで、こういう話をして、どの商品を買っていったのかというところまで掘り下げるんです。そこは個人のお店ではなかなかできないレベルでやれているんじゃないかと思っています。
それらとは別に個人的に意識しているのは、LAGOMの運営を通して「服のブランドの知識を高める」「古着屋の経営を学ぶ」「レイアウトスキルを学ぶ」という3つの軸をです。一番はレイアウトの部分でビジュアル的に物をよく見せてお客様に接客する機会を与える。例えば1枚の服が売れると売り場のレイアウトを丸々変えることもあります。そのくらい売り場の鮮度と1枚を売ることに力を注いでいるんです。
洋服の知識で地域を盛り上げたい
お店以外の活動をしています。例えば2021年11月に伊那でLAGOMのポップアップ出店したのをきっかけに、今年の5月にファッションショーをやりました。これらは服を好きになってもらって、伊那の地域に若い子を誘致するというのが目的です。人前に出てランウェイを歩くという非日常を味わうことで、地域の活性のきっかけにつながる手応えを感じることができましたね。これをきっかけに2023年6月に伊那で開かれるバラサミットにはファッションショーが盛り込まれることになっています。
また今年の7月には古着屋さんのない塩尻で県内10店舗の古着屋さんを集めてマーケットを開いたほか、10月には安曇野にもスノーボードを特化した新しい古着屋さんをオープンする予定です。
もっと身近なところでは、このベルビアの1階に、プリムラさんというお店があります。総合衣料と呼ばれるジャンルです。総合衣料だからこそのバリエーションや季節感のある演出のできるお店にしたいと思ってレイアウトをさせてもらいました。他にも、諏訪のソウルフード「テンホウ」さんとのコラボの話も進んでいます。
なぜこんなことをしているのかというと、服の知識を通してどう地域を盛り上げられるかっていうのを自分に課してこの町にきたからです。店舗以外の活動についてはすべて無償でやっていますが、それをきっかけにLAGOMを知った人がお店に足を運んでくれたらとうれしいですし、その結果地域を盛り上げていければと思っています。