イベントレポート
ワークラボ八ヶ岳 オープンラボ&ブックフェスタ より
『たった1人からはじまった日本一の子ども達の居場所づくり』
一般社団法人キッズラップ代表理事 金子淳子さんスペシャルトーク
ブックフェスタ&オープンワークラボが行われていた9月24日(土)、山口県宇部市で日本一のこども食堂と呼ばれる「みんにゃ食堂」を運営される金子淳子さんにお越しいただき、子どもの居場所づくりについてのお話をいただきました。
小児科医として働くかたわら、実に幅広い活動に尽力する金子さん。その精力的な活動の数々をご紹介いただくとともに、今なぜ第3の居場所が大切なのか、そこにかける思いを伺いました。
みなさまこんにちは。山口県宇部市からきました金子です。
物心ついてからは長野県には初上陸ということで、ワクワク楽しみにやってきました。
宇部市は山口県の真ん中あたりに位置する人口16万人、緑と花の工業都市です。山口県の空の玄関、山口宇部空港があるので、東京羽田からのアクセスが良いのが特徴です。今年の5月に市役所の新庁舎が完成しまして、日本で初めて水素による発電、燃料電池施設を有した市役所となっています。
日本で一番古い彫刻展「ビエンナーレ」や、アニメ「エヴァンゲリオン」の聖地でもあります。
私はこの宇部市で「みんにゃ食堂」を運営しています。1回にだいたい300人が利用する日本で一番大きなこども食堂とも呼ばれています。
▼一般社団法人キッズラップHPより 「みんにゃ食堂」の外観 (山口県宇部市)
なぜこのようなことを始めたのかというと、現代の子育て家庭というのは本当にしんどいなか踏ん張っているんですね。学習に困難がある人が15人に1人、産後うつが7人に1人。産後うつっていうのはお父さんもなるんです。そのほかにも子育てについての相談できる人が周りにいないという人が7人に1人。相対的に考えて2人に1人はなんらかの問題を抱えていることになります。
レジリエンスという言葉がありまして、これは強くしなやかに立ち上がるための力を意味しますが、個人で逆境を跳ね返す力ではありません。困難から立ち上がるには家族、学校、友人、そして地域での共生が大切で、私はこの中でも特に地域が大切だと思っています。簡単な目安としては、家族以外に自分のことを真剣に考えてくれる大人が2人いることが望ましいと考えています。
最新の統計では「直近1ヶ月間に自分で自分の体を傷つけたことがあるか」との問いにYESと答えた子が17%にのぼります。このコロナ禍でそうしたリスクが非常に高まったと感じています。
こうした子は特に家庭以外の大人の支えが必要なんですが、私のクリニックの外来に訪れた子にお父さんお母さん以外に相談できる人がいるのか聞いいても「いない」と答えます。学校の先生ですら支えになれていない。近所の大人もなることはない。そんな社会をなんとかしたいと思ったんです。子育ては家庭や親だけの責任ではありません。共同養育(アロペアレンティング)といって、子どもと子育て家庭を地域で支える形が理想です。
▼スペシャルトークの様子① 前半は、金子さんの活動を中心にお話しいただきました。
地域の力にはぐくまれ地域の力も高まる
2014年には子どもや子育て世代の安心できる居場所を作るために、かねこキッズクラブを立ち上げました。
2005年にはおまつりをしてみようと考えました。最初は私のクリニックと駐車場を使ってクイズや輪投げ、バザーをやったりといった感じでした。その後年々参加者が増えてきて手狭になったなあと思っていましたら、2015年に行政の方から声をかけていただいて、商店街を使わせてもらっています。プログラムは全部無料で、地元の高校生や大学生が企画してくれたり、企業や団体いろんな人が手伝ってくれたりします。
こども食堂は友人のお寺で月に2回。子どもから高齢者まで誰でも無料です。毎回野菜たっぷりのおかずなどを用意していて、会場に入り切らないくらいの人がきてくれます。
お野菜は地元の八百屋さんから。卵も養鶏業者の方が毎回300個寄付してくれますし、ヤクルトも寄付。フルーツはとある企業が毎回買ってくれていてお米も寄付してもらっています。ほかにも山口のサッカーJ2「レノファ山口」やバスケットボールB3「山口ペイトリオッツ」のみなさんがきてくださることもありますし、宇部市内の料亭さんが3か月に1回握りずしを提供してくれたり、マグロの解体ショーをしてくれたこともあるんです。
何かしようと思うと、どこからか力を貸してくれる人が出てくるんですね。それを繰り返すことで地域の力が強くなっていくように感じています。
▼一般社団法人キッズラップHPより 施設内の様子 (山口県宇部市)
季節の食事や行事 そこから得られる経験と文化
こども食堂の食事の内容は、季節や行事を大切にしようと思っています。お正月はお餅をついたり、お月見のお団子を作ったり。お寺なのでクリスマスはダメって言われているので、その代わりに4月に花まつりをやっています。
なぜこうしたことを大切にしているかというと、経験とか体験というのは子どもたちがその後の人生で人とつながるためのフックになるんです。
家でお父さんからよく殴られると言っていた小学生の男の子がいました。その家の冷蔵庫はいつもからっぽで思うようにご飯が食べられない。その子はここのお餅つきで初めてお餅を食べました。そうしたら食べた次の日学校で、校長先生に「お餅って知ってる?白くてすっごくおいしいんだよ」と話しかけたそうです。
ここで「初めて」を経験する子が結構います。私たちはあからさまに支えるようなことはしないようにしていて、そうした体験を通してにぎわいの中で密かに見守るようにしています。
神奈川の高校で居場所カフェを運営している石井正宏さんという方が、経済的に豊かな生い立ちの子は文化を習得しやすく人脈ともつながりやすい。経済的資本がない子にはそのチャンスが少ない。そうした子にこそ文化を落とし込んであげる必要があると言っています。いろいろな大人との出会いやたいせつにされる経験、それらが自尊感情、自立するする力につながっていくと聞いて、まさにこれだ!と思いました。
▼スペシャルトークの様子② 後半は、モデレーターとの対談形式で、取り組みについて詳しく伺いました。
こども食堂からさらに次のステップへ
今こども食堂は全国に6000か所もあるといわれています。そうした数字的なものとか、地域づくりいったキーワードで語られることも多くなりましたが、一番大事なことは、子どもの虐待防止や子育て支援、子育て家庭のケアだと思っています。
実際ここをきっかけに児童相談所に一時保護となったケースもありますし、逆にここをきっかけに立ち上がった人もいます。
でも食事の支援だけでは子どもの人生変わらないじゃないか。今日のご飯が食べられるだけじゃなく、勉強を教えなきゃいけないんじゃないかと考えるようになりました。
「ケーキの切れない非行少年たち」という本を読まれたことがありますでしょうか。触法少年、いわゆる非行少年たちって認知が悪い子が多いんです。例えばお金がないとき誰かに借りるのではなく、どこかからとってこようと考えてしまう。そうやって簡単に犯罪に手を染めてしまう。困難な環境にある子どもたちには学習に課題を抱える子がおおくて、小学校2年生くらいからスパッと勉強がわからなくなっているように思います。なのでこれは自腹ですが、週に1回の学習支援も始めています。
それから「支援対象児童等見守り強化事業」という、困窮している家庭に民間団体が食事を届けるという国の施策があります。困っている家庭というのはいろいろな事情が絡み合っていて、ただ食材を届けても腐らせてしまうとか、お弁当だけでは根本的解決にならない場合も多いので、民間団体と家庭と行政の三角関係で連携して家庭の事情に合わせて対応するんです。
例えばお金はあるけれどもご飯を作れないお家があります。そこで毎日子どもたちにお金を渡すが、子どもたちはそのお金を持ってコンビニにいってもおもちゃを買ってしまいご飯を食べられない。すると翌日学校に行っても保健室に行くことになるという悪循環。その悪い循環をなんとかするには、お弁当を届けることも大事だけれど、そこから連れ出さなくてはいけないんです。そのための仕掛けをていねいにていねいにやっています。あるときその家のお父さんが初めて食事を取りに来てくれて、うちの子どもたちを任せたいと言ってくれました。これは訪問員が訪問しながら地道に関係性、信頼関係を作ってきた結果だと思っています。
そのほかにも食品や物資を配るパントリー事業もやっています。
▼スペシャルトークの様子③ 金子さんのお話に真剣に耳を傾けている参加者の皆さん
貧困が子どもから奪う生きる力を取り戻したい
拠点がほしいなと思って、去年の夏に新たに借金をして家を建てました。それがキッズラップという新しい団体の拠点です。1階にはカフェカウンターや自由に遊べるスペースを広くとって、まちライブラリーも設置しました。2階はお勉強するところ。オープンキッチンや泊まれる設備もあります。
ここでは、日本財団が全国100か所以上に展開している「子ども第三の居場所」事業を受託しています。日本財団の大切にしている考えとして「社会的相続」という言葉があります。親から子へ受け継がれるお金よりもっともっと大切なもの。子どもにかけるお金だったり時間だったり、親の周囲との関係性だったり。親の食習慣、価値観、生活習慣。こういったものが子どもが自立するための大きな力になる。
▼一般社団法人キッズラップHPより 第3の居場所づくりについて (山口県宇部市)
虐待、学習障害、非行、自傷、最悪の場合には自殺。こうした問題の根底には貧困があるんです。貧困とはお金だけではなく、不十分な衣食住、そして一番は人間関係です。それによって培われる自己肯定感が自立にとって大切。ここではそうした環境のない子どもたちにも自立できる力を作ってあげたいなと思うんです。
だらだらと並べましたけれど、小児科医として子育て家庭に寄り添いたい。それにはまちづくりにかかわらなきゃいけないというのが発端でした。子育てが楽しいとか、ここで生まれてよかったって思える町にしたい。最終的には子どもたちが自立し生き抜く力を培ってくれたらいいなと思っています。
北九州のNPO法人抱樸の奥田知志さんは、子どもたちをとりまく2つの課題は社会的孤立と経済的困窮といわれています。解決には支援の専門家がガチッと固めるのではなく、できるだけ多くの人が細くてもいいからたくさんの手で支えるのがいいそうです。そしてあらゆる人を孤立させない、一人にさせないそうしたつながりを作るような拠点ができたらいいなと考えでやっています。
いろいろな方が見にきてくださって、取り組みを知って広げてくださった。私たちもつながりの中できてくださった人をまた誰にかにつなげる、ハブみたいな役割をすることができるようになってきつつあります。
▼スペシャルトークの様子④ 金子さんとモデレーターとの記念撮影
【実施概要】
- 日時:9月24日(土) 13:30~ (オープンワークラボ&ブックフェスタ イベント内)
- 講演タイトル::『たった1人からはじまった日本一の子ども達の居場所づくり』
- ゲストスピーカー: 一般社団法人キッズラップ代表理事 金子淳子さん
- モデレーター:平賀 研也(たきびや)、礒井 純充(一般社団法人まちライブラリー代表理事、まちライブラリー提唱者)
主催:茅野市コワーキングスペース「ワークラボ八ヶ岳」(指定管理者一般社団法人 まちライブラリー)
▼参考記事