情報社会におけるメディア・リテラシーの重要性
第二回ワークラボ八ヶ岳・ビジネストークイベントでは、産経新聞社コンプライアンス・アドバイザーの鶴田東洋彦氏をお招きし、記者生活33年間の経験から情報の正しい読み解き方、メディア・リテラシーの磨き方を解説していただきました。
SNSなどの普及により、スマートフォン一台で誰もが簡単に多くの情報を入手できる時代になりました。その一方で情報の真偽が問われる事も少なくありません。
簡単に情報が手に入る一方で、いかに情報を選別するのか、得た情報をどのように扱うのか、メディア・リテラシーの重要性をお話しいただきました。
メディアの変化とメディア・リテラシーの磨き方
昔はメディアというと新聞やテレビ、ラジオ、雑誌、書籍などが主流であり、情報の流れは、メディアが発信した情報を視聴者・読者が受け取るという一方通行でした。それに対して現在は、SNSを利用して誰でも瞬時に情報を画像付きで簡単に投稿できるようになり、その投稿に誰でもリアクション・拡散できる双方向の特性を持つようになったと鶴田氏は言います。
「国民全員を新聞記者にしたツールであるソーシャルメディアですが、その反面で、ヘイト発言やフェイクニュースの拡散など、情報の真偽が問われることも多くニュースを正確に読み解くことをより難しくしました。」
ソーシャルメディアを通して日本だけでなく世界に不確かな情報が拡散されるリスクがある時代だからこそ、情報をいかに自分の中で咀嚼し把握するか、情報を選別することができるメディア・リテラシーが重要、と言います。
鶴田氏曰く、メディア・リテラシーとは、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌、ネット等のメディアが発信する情報を正確に把握し社会に伝える能力、読み解いて活用する情報把握の総合的な能力であり、それを磨くには次の4つのポイントが重要だということです。
①日頃から自分自身にとって信頼できるメディアを頭の中で整理しておく
②情報源を的確に判断できる読解力・理解力を磨く(情報の経緯や歴史などを学んでおく、知識を蓄える)
③情報の発信源を確認する
④情報が事実であるのか、個人の意見なのかを見極める
日頃から多くの情報に触れること、また情報を鵜吞みにするのではなく自ら考え、調べることです。
メディアに対する考え方・接し方の海外と日本の違い
鶴田氏によると、一年半前に実施されたノースカロライナ大学による全米のメディア調査ではアメリカで8000社あった新聞社が2100社廃刊になったという結果が発表されたそうです。
アメリカの広大な地域で4社に1社の新聞社がなくなったことで、新聞による選挙報道の機会が減少、投票率の低下や、SNSでのフェイクニュースやヘイト発言によるモラルの低下、人種差別問題の拡大など様々な問題が起こりました。
このような問題に対して、アメリカでは新聞を普及させるための対策としてジャーナリストを雇用している地方新聞などに税制を控除する法案を作成したり、一部SNS媒体の利用規制や広告画像、報道内容の規制を行ったりと、様々な対策を行っています。
また、EUでもSNSでヘイト情報を拡散させた人やサイト、企業への罰金や、ネット上の違法なコンテンツを取り締まる法案が作られています。
それに対して日本は新聞社が活発であり、世界で最も新聞を出している国だと言います。また、新聞の宅配サービスもあり、新聞を手にとる機会が海外に比べ多くあります。しかしながら、日本ではソーシャルメディアの違法コンテンツや誹謗中傷を厳しく取り締まる法案がまだ存在せず、幼いうちから危険な情報に触れる可能性も少なくありません。
そのような状況下で必要な事は、上記に挙げたメディア・リテラシーを自分自身で磨き自衛していくしかない、ということです。
現在の日本のメディアの変化と今後の課題
日本の新聞社においても、最盛期に比べ約2割もの新聞が廃刊となっているそうですが、日本の新聞は宅配制度があり、未だ普及している信頼度も高いメディアであり、メディア・リテラシーを磨く手段として活用できると鶴田氏は言います。
新聞にはおよそ150~200本のニュースが含まれており、個人・政府・官公庁・企業・教育機関等からのニュースソースに取材、調査し得た多くの情報を発信しています。
アメリカでは学生の9割が新聞を購読しています。その理由として、ソーシャルメディアは情報の入口として利用し、新聞を読んで情報の詳細を知るという事を行っているからだと言います。ソーシャルメディアに記載されている記事の中には、新聞記事から抜粋されたものもありますが、それは新聞記事の一部切り抜きであることも少なくありません。スピード重視のソーシャルメディアでは情報が不十分なこともあります。
しかしながら、日本人のほとんどがソーシャルメディアをメインに情報を得る習慣があります。ソーシャルメディアから得た情報の精度を上げるためにも、新聞を通して活字に触れ、メディア・リテラシーを磨くことが必要だと鶴田氏は言います。
ソーシャルメディアの影響力はまだこれから拡大していく一方で、今後規制がかかる可能性もあります。また、影響力がある媒体だからこそフェイクニュースの怖さや、一度投稿した情報は刺青のように消えず残ってしまう(デジタルタトゥー)可能性も視野に入れなければならないそうです。
鶴田氏は、「ソーシャルメディアの普及により便利になったからこそ、様々な危険性を考え、多くの情報を自ら咀嚼し受けとめるためにもメディア・リテラシーを磨いていかなければなりません。」と締めくくりました。