6月から開講したスタートアップスクールの「ゲストトーク」1回目のお客様として、ブリコールズ合同会社の石田奈津子さんをお招きしました。
石田さんは、起業・創業を志すスタートアップスクールの参加者と同じように、地域を生かした事業づくりに取り組んでいます。学生時代からさまざまな地域を訪れながら人々と交流する中で、地域活性に興味を持ちます。東京のITベンチャー企業に就職するも、都市をつなぐコーディネートをしたいと決意。「すごい旅人求人サイト SAGOJO(サゴジョー)」の立ち上げに参画し、地域と連携した企画を立案しました。コロナ禍では、地域と都市をつなぐ「オンラインスナックなつこ」を立ち上げたり、現在は、お寺を拠点にした新たなプロジェクトにも取り組んでいます。
〝事業はどんなふうに始まるのか“ 石田さんを追体験する中に、ヒントがあると思います。
自分にできることは、地方と都市をつなぐコーディネート
大学卒業後、東京のIT系の企業で働いていた石田さんは、地域活性を目指す仕事を諦められず、東京での仕事をやめ、与論島に飛び込みます。8ヶ月間、島の人々と共に暮らし働くことを経験しました。
何も知らずに島に飛び込んだ石田さんを、様々な地元の方々と繋げてくれたのは島のホストや中間支援団体の方々です。都市・地方、どちらの視点をも持った仲人的なポジションの重要性を、島で生活する中で石田さんは感じました。自分にできることは「地方と都市をつなぐコーディネーターなんじゃないか!!」と思い、「すごい旅人求人サイトSAGOJO(サゴジョー)」の地域創生事業の立ち上げに参画します。「SAGOJO」は、その地域特有の仕事や地域の困りごとと、旅人が持つスキルや地域への関心をマッチングして地域課題の解決を目指すプラットフォームです。地域の持つ課題は、林業や観光業、農業石材業などといった広範囲に渡ります。そして、SAGOJOを利用する会員は、生粋の旅人・フリーランス・土日を活用して地域に貢献したいサラリーマンなど様々です。
石田さんは、ここで地域と旅人を結びつける企画立案やコーディネートを手掛けます。
多様な「地域の困りごと」を解決しつつ、旅人は普通の旅では得られない「体験」を得ることができ、また更にその地にいきたくなる仕掛け・仕事を日本各地で企画しました。
ちょうどその頃、「関係人口」という言葉が世間で使われ始めます。石田さんは企画・コーディネートを通して、関係人口とは何なのか、どうやったら関係人口を増やすことができるのか、よそ者が地域に受け入れてもらえるのかなどに取り組んでいきました。
地域と都市をつなぐ「オンラインスナックなつこ」で原点回帰
しかし、コロナ禍で県を跨いだ移動ができなくなり、石田さんの環境が一変します。そこで思いついたのが地域と都市を食で繋ぐ「オンラインスナック」でした。
「コロナ禍で、飲食店、地方の観光事業者、生産者さんなど、この人はどうしているんだろうって思いました。困っていた人がたくさん周りにいたんです。そこで、私ができること、私が持っているものはなんだろう?と考えた時、地域や生産者とのつながりと、そこを訪れたときのエピソードがある、と思ったんです。
その人たちを繋げられるオンラインサロンのような「スナック」をやってみようと、知り合いの生産者の一人に相談してみたところ、コロナ禍でやれることを何でもやってみよう!といってくれて、たった10日間でサイトも立ち上げ、最初のオンラインスナックを開店しました。」
「スナックなつこ」の仕組みは、まず石田さんが訪れたことのある地域、そこで出会った生産者をゲストに設定します。参加者を事前に募り、参加者には開催日までにゲストからつまみとなる商品が届けられます。当日は、各々つまみやお酒を持ち寄り、画面越しに会話を楽しみます。
「生産者からも、自分の作るものを初めて食べる人の反応を見ることは滅多になかった。こうした瞬間に立ち会えたことが良かったと言ってもらえました。また、普通では一般の人が立ち入れない生産の現場や蔵の中を、オンラインで見せてもらえることもありました。生産者にとってIT技術を積極的に取り入れるきっかけにもなったと思います。
私にとっても、これまでの活動や経験の振り返る機会となりました。お世話になってきた人達に再び出会うきっかけを与えてもらえました。」
身近な課題を繋げ合わして、新しい場をつくる
石田さんによると、お寺は、全国に7万7千もあり、もともと宗教施設としてだけではなく、寺子屋、集会場、駆け込み寺といった地域の拠り所となる存在でした。現在お寺は「檀家減少」などといった問題に直面しており、石田さんはかつての機能を現代社会でいかすことができるのではないかと、新たに地域と人とをつなぐ場所として「寺カフェ」をつくりました。長く人材採用の仕事にも関わってきた経験から、飲食店の採用が困難なことを痛感しており、寺カフェでは、地域の子育て中の女性や、コロナ禍で人との接触が減ったため、隙間時間を活用して人と接する仕事がしたいというような方など、多様な人に関わってもらっています。お寺と地域、多様な関わりを生み出す場を目指しているとのことです。
「私の原点には、自分にできることは何か、今あるものをどう活かせるか、という問いに応えたいという想いがあります。今後も、様々な社会のニーズや課題、そして自分のできることを組み合わせて、新たなものを、つくっていきたいと思っています。」と、石田さんは話してくれました。
スタートアップスクール ビジネストーク
「地域課題を解決する ―人材と課題をマッチングするブリコラージュ的ビジネス」
石田奈津子
2024年6月15日(日)開催より
文責:田中ゆきこ