中編「ローカルビジネス」とは?〜茅野発ローカルビジネスの可能性イベントレポート 

9月20日(金)に開催されたスペシャルmeet up Lab「茅野発ローカルビジネスの可能性ーわたしらしさ、地域らしさを考える」のレポートを、3回に分けて掲載します。

前編 「地域らしさ」とは?
中編 「ローカルビジネス」とは?
後編  壁を乗り越えて、やり続けるために

中編「ローカルビジネス」とは?

田子:「ローカルビジネス」というと、地域課題や社会課題を解決しつつ、自分ができることや得意なことを商品やサービスとして提供し、経済的な循環を生み出すこと、といえるのかなと思うのですが、みなさんは、どのようにお考えですか?

今、こんなことを考えている、これからこんなことをやろうと思っているなどを聞かせていただけると、そこにヒントがあるんじゃないかと思っています。

橋本:地域の課題や困りごとはたくさんあると思います。

小さい事例では、ベルビアにあるbar平野の平野さんから地元の食材を使ったフルーツサンドを作りたいと相談を受けた時、料理が得意な女性を紹介して双方に非常に喜んでもらった、ということがありました。彼女はそれを仕事にしているわけではないんですが、一つの仕事になったわけです。目の前の人の困りごとを解決することでお金になることって多い。小さいことってたくさんあるんですよね。

一方で、大きい例では、私がこれからはじめる登山者を対象にした宿です。登山者がゆっくり眠って休める場がないと山で体調を崩す恐れがありますが、でも、駅前にはホテルがあまりない。こうした地域課題を解決して、安全をしっかり提供していこうと考えています。

法人ができる大きな歯車もあれば、個人で仕事をしながら解決できることも山ほどあると思っています。

向井:私もこの一年で大きく変わった部分があります。

ビジネスとしてやっていくのであれば、やはり「人」に着目して、人と人とがつながって何かを生み出すことをめざそうと思っています。自分一人でやるには限界がある。

それぞれが得意なところを出し合って新しい何かを生み出す、その行為の連続に、人は共感を抱いて集まってくると思うんです。「集客」というのはそういうことかな、とこれまでの経験から感じました。どのようにして新しい事業にするかについては、これからもう少し掘り下げて考えてみたいと思っています。

実は、今月で古着屋LAGOMを閉店します。LAGOMには地元のお客様もたくさん来てくれていますが、これを成功と捉えるのでなく、この先に何があるのかを考えました。

茅野市を盛り上げるには、私がお店に出ていると、イベントやまちづくりに関わる仕事へのレスポンスが遅くなってしまう。これ以上、抱えきれなくなっていました。

そして、古着屋という枠組みだけでは若い方々しか対象にできず、広い客層にアプローチできない、ということがわかってきました。それで、思い切って変化を求めました。

私は、蔵市や駅前のイベントなどで出店者を募るときに、実際に出店者を訪れて、その方がどういう思いで、どういったことをしているのかを自分なりに紐解いて、その上で、お願いします。

また、イベントに来るお客様から「なぜこのお店が出店しているのか」と聞かれた時に、私自身が理由を語れないとイベントの厚みが出ないと思っています。例えば、アクセサリー作家には製作や準備にかけた思いがあり、私がそれを伝えていかないとお客様が「この作家に会いに行こう」という気持ちにはならないんですね。

私がお店を持っている状態では、それをやりきることができない。無責任になってしまうと思いました。

橋本芳裕
向井啓祐

齋藤:地域を盛り上げるとか、地域を元気にという言葉は、非常に抽象度が高い。

じゃあ、より健全な地域とはどういう状態なのか、良い地域っていうのは何かをまずは定義する必要があると思います。

それは、医療や教育、福祉など住みやすさを表す指標はいくつもありますが、全て費用がかかります。地域を元気にするということは、まずは地域を経済的に良くしていく他にないと考えています。

我々経済活動をしている側の人間としては、利益を出していかざるを得ない。私は、地域を経済的に盛り上げることに微力ながら貢献できているのではないかと思っています。向井さんと一緒に、私もやっていきたい。

地域の経済基盤は定住人口によりますから、減少する地域内の労働生産人口も食い止めないといけない。どの地域も喉から手が出るほど移住者を欲しがっています。となると、結局、地域の外から選ばれないといけない。

観光には外貨を獲得するという役割がありますが、外から来たお客様をおもてなしして、この地域を「好きな地域」から「住んでみたい地域」に変えることもその一つです。

移住・定住につながるほどの人生にとって強制力がある出来事といえば、一つは就職によるもの、もう一つは、この地域が好きで自分が納得した上でここに住むということなのではないかと考えます。

知らない地域を好きになる、そもそものきっかけは大体が観光を通じてだと考えますので、移住・定住に大きなきっかけを与える観光にも力を入れることは、非常に大事だと思います。

地域課題や社会課題を解決するとは、結局、自分自身に立ち返る、自分の生業に真摯に向き合っていく他ないだろうと、個人的には思っています

山越:齋藤さんがおっしゃった移住に関して、小泊Fujiにきたお客様が地区を気に入って、実際にあの地区に移住したいと土地を購入して家を建てる予定の方が1組いらっしゃいます。こうしたきっかけとなる場を自分がやっているんだ、ということを意識しながら事業しています。

地域課題や社会課題に対して、これに取り組むというより、いまは、営業を開始したばかりで、まずは、自分の事業を安定させていくことに重きを置いているので、具体的なアクションは残せていないです。

開業を迎えるまでの間にクラウドファンディングをやり、支援してくださった方が400名以上、宿の建設に協力いただいた方々を含めると500名以上にのぼります。その方々ひとりひとりに、お礼をして回るのは難しいこともありますし、まずは、関わって良かったと思っていただける事業にすることを考えています。

齋藤由馬
山越典子

土谷:コロナ以降、リモートワークや二拠点居住などによって「八ヶ岳」がブランドになっています。

いま、物件がなくて、みなさん探しています。私自身は、ちょっとひっくり返りそうなくらい本当に忙しい。この小さな地域で民族大移動のような事が起きていて、相当な人がここに向かってくると思います。

田子:地域でやっていく中では、地元の人たちや移住してきた方を巻き込むといったことも大事な視点で、地域全体の経済活動の活性化につながるのかな、と思いますが、いかがですか?

土谷:うちの会社では、お客様は100%県外の方々です。会社の外注先や協力企業はすべて地元なので、そういう意味では直接ではありませんが環流しており、それなりの貢献ができていると思います。

ビジネスを起こすことについて一言。会社員が、土日や休暇をとりながらセルフビルドで自分の家を作りますよね。すると、ほぼ全ての方が独立して、自分でビジネスを始めます。

やはり、どこかに隷属するより、自分で起業する方がどんなに楽しいか、セルフビルドを通して体験しちゃうんですね。それなので、みなさん、ぜひ、自分の家を自分で作りましょう!

田子:学生に対してはいかがでしょう。

宮木:私はビジネスというよりソーシャル、地域課題、社会課題に対してアプローチしている側です。やっていることは「学び」であり、“学びの土壌”が地域にあるかどうかは、大きいと感じています。

“学びの土壌”は、子どもたちのためですからビジネスでなくボランタリー精神で関わってくださっている方が多いです。はじめは「子どもたちに学びを提供する」という姿勢の方が多いのですが、大人の側が子どもたちから受け取るものも、すごくたくさんあります。

私たちの団体が大事にしているキーワードは「全員、学びの主人公」です。子どもたちだけが学びを受け取るのではなく、大人も学び続けなければならないし、子どもも大人もともに学びあう仲間であってほしい。

こうした学びの土壌が地域にあるからこそ、良い循環が生まれ、定住につながり、また、地域の魅力にもつながるかもしれない。そこが教育の大事なところだと思って活動しています。

田子:そうしたサポートが、経済活動にどのようにつながっていくのでしょう?

宮木:私が関わるのは高校生ですし、「学び」が直接経済活動につながることは少ないかもしれません。けれども、高校生の子どもたちが、自分のキャリア、その後の自分の人生を自分らしく生きていくことが、将来、その子たちの姿をかたちづくっていきます。活き活きと自分らしく生きていくことは、巡り巡って経済活動をより豊かにしていくことにもつながるのだろうと思います。

学校や教科書で学んでいるだけでは気づくことができないことが、とてもたくさんあります。子どもたちは、地域の中でさまざまな人、もの、ことと出会い、気づきを得ながら、自分はどうしようかなと考えていくんだろうと思います。だから、こうした地域との関わりや経験がすごく大事なのだと考えています。

土谷昭司
宮木慧美

大塩:私が料理の仕事をするようになったのは、たまたまこの仕事が長く続いたから。

武居さんが先ほど、自分しかできないことをする、とおっしゃっていましたが、とても大事だと思っていて、やり続けたいということしか考えていないです。

東京では、競争社会の中にいて、それがとにかく苦手で、あまり競争したくないと思っていました。自分のできることは自分でやる、できないことは誰かにやってもらおうというシェアの精神を大事にしています。とにかく自分でできることをしっかりやることしか考えていないので。

街を盛り上げたいという方が周りにいっぱいいて、すごいと思う反面、私は何ができるのかと個人レベルでしか考えていないのですが、でも、個人レベルで考える人を増やしていくことも大事なことなんじゃないかな。

意外と小さなことが重なって世の中できている。それを大事にするということを、今からやってきたいと思っています。

大塩あゆみ

田子: 以前meet up Labで話を伺ったとき、あゆみさんは、インスタでもプライベートな内容を発信されていて、「旅に出るとお客様が喜ぶし、帰ってくるとみんなが待ってくれている。自分で色々やった方がいい」とおっしゃっていて、その通りだなと思いました。

必ずしも困っていることや求められていることに応えるだけでなく、みんなが求めていることをキャッチする、それに気付けることの方が、新しい価値を生み出せたり、新しい市場を開拓するチャンスだったりするのではないかと思っています。

あゆみさんはお客様ともお友達みたいに仲が良く、一緒に飲みに行かれます。向井さんも個人で活動に取り組んでいますよね。

向井:齋藤さんがおっしゃった、「まずは、自分のことをちゃんとやって、自分と向き合うこと」が必要だと思っています。あと、自分に責任を持つ事が大事で、土谷さんがおっしゃっていたセルフビルドです。

みなさんが独立して起業されるようになったというのを聞いて、責任を持つというのは何にも変え難い楽しさがあって、セルフビルドを通して知るのかなと思いました。

小泉:私は、原村に移住してまだ一年ですが、これから地域おこし協力隊で働いている夫と一緒に事業を起こしていこうと考えています。移住して事業をやりたいと思っていてもなかなか踏み込めない、私たちもその壁に今直面しています。夫が、地域おこし協力隊として移住相談を受けたり、空き家の調査をしています。これをみていて、空き家や古民家をゲストハウスとして事業化できないかと思っています。

時代の移り変わりが早くて、昔のやり方が今は通用しないと痛感しています。また、みなさんがおっしゃる通り、個人個人がエネルギーを出していく時代なのかとも感じています。

自分に何ができるのかを自問自答して、夫婦で掛け算という形で「ゲストハウス×鍼灸院」「ゲストハウス×ハンドメイドのワークショップ」だったり、個性を出していくことが大事なんじゃないかと思っています。

私は、会社員の経験もありませんし、鍼灸師だった父の背中を見て鍼灸師として一人で仕事をしてきました。そして、SNSの発信を通して、自分を出していく、自己開示していくことで、伝えられるということを学びました。

自分のネガティブな部分もいい部分も包み隠さずありのままをどんどん出していくことで「いいね」というボタンをたくさん押してもらえる。共感が得られて、私もみなさんの想いをキャッチできるし、こういう商品が欲しいといっていただけたという経験があります。周りがやってるから同じようにやるというのでなく、個性をどんどん出すとこれからの時代は注目されるんじゃないかと思いました。

橋本芳裕(左)、小泉恭子(右)

田子:キャリアカウンセリングをしている橋本さんからアドバイスはありますか?

橋本:やっぱり何かしたいけど、一歩踏み出せない方は非常に多いと思っています。

私自身も、最初に勤めた会社がベンチャー企業で、多くの同僚が辞めて独立する中で、それに踏み出せず転職を選びました。転職後は副業しながら何ができるのか探っていました。最初の相談が、人材紹介をやってくれというもので、試したのですができなくて、そう簡単じゃないな、というところからスタートしました。

いろんな可能性があり、クロスしてできることもたくさんあると思います。でも、その一歩がやはり難しい、ということが非常に大きい。

踏み出すと転がっていくんですね。私も副業の一歩を踏み出すのが大変でしたけれども、なんとか踏み出して自分で5000円でも1万円でも稼ぐことができれば、変わっていく、成果が見えてくるんじゃないかと思っています。

地域課題や社会課題とかっていうとちょっと僕には大きすぎて、正直じゃあ自分に何ができるかって考えた時にわからないんです。

齋藤:小泉さんがおっしゃるように、まずは自分自身なのかなと思っています。

僕、好きな言葉は「一灯照隅」です。まずは、自分が自分の足元をどんなに小さくてもいいから明かりを灯すということは大事だなと思っています。

多かれ少なかれ人は、共感したり触発されたりと影響しあって生きているものだと思います。そうした中で、誰かが明かりを灯すことで、「僕も、私も何かできるんじゃない?」と隣で明かりを灯す人が現れる。それがどんどん集まってくると、その明かりが光になる。虫でも人でもやはり光があるところに集まりますよね。観光もそうです。光を観ると書きます。こういうことなんじゃないかと思いました。

齋藤由馬

後編 壁を乗り越えて、やり続けるため、に続きます

前編「地域らしさ」とは?

オープンワークラボ スペシャルmeet up Lab
“茅野発”ローカルビジネスの可能性ーわたしらしさ、地域らしさを考える日時:2024年9月20日(金)18:00-20:00
会場:ワークラボ八ヶ岳
主催:ワークラボ八ヶ岳(一般社団法人まちライブラリー)
後援:茅野市
https://wly.jp/topics/920meetuplab/