「経験の積み重ねで『自分なりのもの』ができていく」岩波路恵((株) イマージ/「ちのの休日」プロジェクトマネージャー)

今回は「自分の才能の見つけ方」と題して、ゲストの岩波路恵さんに話を伺いました。岩波さんは、制作会社でデザイナーやディレクターとして働いてからカナダに留学し、帰国してネイルサロンを立ち上げ、ご出産を経て諏訪に戻っていらして今日に至ります。様々な経験に対してどのように向き合ってきたのか、楽しかったこと、悩んだこと、辛かったことを具体的に伺い、参加者も一緒に自分自身のこれまでを振り返りました。

レポートでは、岩波さんの「人生における変化の兆しの見分け方」「決断の決め手」「自分探しからの脱出方法」についてまとめました。

「自分探し」は一生続く

岩波路恵:私は、美術大学を卒業してデザインをやっている代理店にデザイナーとして入社し、7年間在籍しました。デザインだけでなく、イベントの開催まで色々な仕事を任せてもらえるようになり、制作のディレクションにも関わって自分ができる仕事が増えていきました。でも、海外に住みたいという気持ちをずっと持っていたので、31歳の誕生日にバンクーバーに行ったんです。

海外から戻ってきてなぜネイルサロンだったかというと、最初はバンクーバーで語学学校に通っていたのですが、周りは10代の若い子ばかりでネイティブの人たちと会う機会がほとんどなく、飽きてきたんですね。それでネイルの専門学校に変えました。

日本ではお客さんの顔が見えない仕事をしていたので、目の前でお客さんに喜んでもらえる仕事の方がいいんじゃないかと試しにやってみたんです。そこで卒業証書をもらい、日本に戻って渋谷にあるネイルサロンでアルバイトを始めました。そして、ここで知り合った人と一緒に自由が丘でサロンを始めたんです。

大学で学んだことや最初に仕事に就いたころと状況や自分の興味が変わってしまって、せっかく培ってきたものが違うものになってしまったと悩んだことは何度かありました。でも、今になってみれば、無駄だったことはあまりなかったと思っています。

海外に行くと決めたときも、せっかくアーティストやデザイナー、いろんな方との関係ができているのに、それを一旦リセットしてしまうとどうなるのかな?という不安があり、後ろ髪をひかれる部分もあって悩みはしましたね。

でも、これも自分探しの一環だったかなって思います。自分探しって一生続いているんじゃないかな。それが、だんだんと子供ができて家族や親や周りの人々との関係者の比重が大きくなってきて、自分探しは続けるんだけれど、すごく悩まなくて済むようになっている気がしています。当時は自己中心的だったと思うんです、若かった頃は。

私は、一つのことに集中して取り組んでいる人が、すごく羨ましかったんですね。「これしかない」と決めて突き進んでいる人って、やっぱり何者かになっているなと思っていました。

私はいろんなことを少しずつ齧ってやってきてしまったので、どんなものだったら夢中になって、我を忘れるほどの使命感を持ってやっていけるのかな、とすごく悩んでいた時期がありました。

でも、多分、気が散る性格なのか、いろんなことをやってみたくなって、やってみて、できると次はこっちもやってみたくなっちゃって…。

人の役に立っているという実感を持ち続けることが「私らしさ」

田子:選択をするのとき、「こうするぞ」とか「これはしないぞ」とか、決めていることは何かありますか?

岩波:はっきり確信はできてなくても、「これは嫌だな」って感じることがあるんです。すごく求められて一緒にやろうと言われたとしても、一緒にできる未来やビジョンが見えないとか。何か理由ははっきりわからないけれど、ちょっと違う気がするという、何かそういう引っ掛かりがあるんです。この感覚は大事にしているかもしれないです。

実は意識していないだけで自分はこっちの道だともう決めているんだけれど、いろんなものに紛れて見えなくなっているんだと思います。

思い返すと、年齢やこれは今やっておいた方がいいといった優先順位は、持っていなかったという気がします。海外に行くこともそれまで大事にしていたことを満喫して、ワーキングホリデーの年齢制限ギリギリのところで行きました。

あとは大切にしている方に相談しました。自分が決めていることと違うことを言う人には多分相談をしなかったと思います。背中を押してくれる人、止めて欲しい時には止めてくれる人に相談する、無意識ですけれど。

自分で自分を認識するのは難しくて、周りに言われて気づくことがあり、仕事をしていた時も、仕事を任されていると信頼されているんだと感じました。第三者の中で自分を認識できるんじゃないかと思っていて、周りにいる人たちの「いい意見」を聞いてきました。

ネイルサロンを開業してお客さんで埋まっているというほどでもない時期があって、部屋で自分が一人になって誰とも喋っていない時間があったんです。そうすると、仕事が終わって友達に電話して飲みに行くんですね。不安でお酒を飲みまくっていたんですが、それを見た友達が、私が荒れているように見えて、大丈夫かなって思ったんでしょうね。何枚にも及ぶ手紙をくれたんです。

ネイルサロンを開業したけど、この道に進みたくないのであれば引き返してもいいよとか、心配しているよ、ということを書いてくれたんです。こんなに心配してくれる友達がいるなら私一人じゃないし、寂しくないよねと肩の力が抜けていって、自分で決めたんだからこのまま進んでいこうとその時思ったんです。自分だけで考えていると独りよがりになって、周りが見えなくなっていたんだなと、ハッとさせられましたね。

私は、アーティストみたいな溢れ出る創作意欲を表現せずにはいられないという人に憧れていて、「私こんなことします!」と宣言するくらいの、壮大な夢が必要だと思っていたんです。

でも、自分の周りにいる人たちの中で役に立てばいいとか、目の前にいるお客さん、人のために精一杯やっていることを積み重ねていくだけでいいのかな、と。自分にとって、人の役に立っているという実感を持ち続けることが大切なことで、それが自分らしさなんだって、思うようになりました。だから、何をやっていても自分らしさを探さずに、「私らしく」生きているんだろうなと思います。

物事を決めるときは、他人の意見に耳を傾ける

田子:そのネイルサロンは大成功するんですが、でもこっちに戻ってきますよね。

岩波:ネイルサロンは同じ年の人と一緒に始めました。だんだんと会社が大きくなっていって、私たちも結婚したり子供ができたりして、接客というより経営に専念するようになっていきました。経営者対従業員という構図ができて、人間関係が厳しくなってきて、自分のネイルサロンなのに行きたくないという本当につらい時期がありました。人間関係は本当に難しいですね。

コロナもあって、子供を長野で育てる方がいいんじゃないのと夫に言われました。サロンを残してこっちに定住し、時々東京に行こうかと思ったんですが、共同経営者と話をして辞めることを決断したんです。その後にコロナになり、その時は、こっちに住んでよかったなと思いました。

正直に言うと、自分は子育てが終わったとはいっても、復帰してこれからずっとネイルサロンを続けていけるかなと不安に思ってました。人間関係に疲れちゃったということもあったかもしれません。諏訪の方が、自分が健やかに過ごせそう、より楽しそうだなと。逃げたといえばそうかもしれませんが、移住を選択したんです。

ネガティブな感じというより、フラットな気持ちで帰ってきました。子供をここで育てる、三姉妹の長女なので実家をなんとかしなきゃいけないという目的があって帰ってきましたから。

一つの物事を決めるときって、絶対こっちの方がいいって迷いなく決められることがあるんですけど、なかなかそうもいかないと思うんです。結構ギリギリぐらいの感じで決めたという感はあります。たくさんのアイテムの中から大事にしていることと、他人の意見に耳を傾けて決めてきたかなと思います。

経験の積み重ねで「自分なりのもの」ができていく

田子:岩波さんは、20代30代の時に一番力を入れたことが自分を一生支えてくれる、と言っていましたよね。

岩波:学生時代や仕事でも、自分のことだけに注力できる時期ってあるじゃないですか。その時に力を入れていたことや、そこで見つけたことが一生役立つと思うんです。

田子:今日ここにきている人たちの中には、その時期をもう過ぎている方々もいらっしゃいますが、その方々は、その時期を振り返って自分が打ち込んできたことが何だったのかを、考えてみたらいいと思うんです。過ぎてきた中に答えがあるんじゃないでしょうか。俯瞰してみたら見えてくるんじゃないかな。

岩波:「打ち込んできたこと」もそうですし、「人に喜ばれた仕事をした」というのでもいいと思います。

過去にやっていたことを振り返って、あれが一番楽しかったとか、あれが一番喜ばれたということをもとに次の未来を考えてみてもいいんじゃないかと思います。

もちろん新しく一から勉強することもあるけれど、その新しいことの中にも自分が今までやってきたことのエッセンスが付加されていく。結局、経験の積み重ねで、それまでやってきたことしか活かせない。それによって「自分なりのもの」ができていくんじゃないかと思うんです。

年を重ねるといろんな経験をしているので、それは強みなんじゃないかと思います。若さも強みだけど、経験もやっぱり強みにしていきたいですよね。

田子:岩波さんの話を聞いて、「人生は一本まっすぐに軸が通ってるべき」というのは思い込みで、特に女性は結婚するし出産もするし環境が変わるので、そのときの気持ちに何か正直に生きていく、その気持ちに向き合って、そのときの状況に応じて自分なりに判断をしながら生きていくことが、もしかしたら、その人らしい人生と言えるんじゃないかな。

どんどん変わって、間違ったなと思ったら戻ったらいい。それが「生きている」ということなんだな、と思えばいいんじゃないか。「変わることが人生なんだよ」ということを教えてもらったと思います。

岩波:やっぱり変わっていっちゃうんですよね。関係すると影響されるし、憧れる人も変わったりするので、置かれる環境によって考え方や目標も変わっていく。男性も同じだと思います。

これまでの目標が魅力的に思えなくなるということってあって、それに突き進んでいくことの方が辞めることよりも辛いというのは、楽しくないと思う。こういうときに「挫折した」と思うのは、すごくもったいない。

だから、次のステップに行ってみる。これが駄目だったというのではなくて、「次はこういうふうにしてみよう」と転換していけると自分が楽になる。そう考えると、いろんなことにチャレンジできて、経験も積み重なっていくんだと思います。

【開催実績】

自分の才能の見つけ方 女性のキャリアデザインを考える
ゲスト:岩波 路恵(株式会社 イマージ/「ちのの休日」プロジェクトマネージャー)
企画・コーディネーター:田子(牛山)直美
日時:2024年12月16日(月)18:30-20:00
会場:ワークラボ八ヶ岳(ベルビア2階 茅野駅直結)
参加費:無料
主催:ワークラボ八ヶ岳(指定管理者:一般社団法人まちライブラリー)
https://wly.jp/topics/20241216/