今回は、茅野駅前で高校生と一緒にコンビニ「ヤツガタケマート」を立ち上げた半田裕さんに話を伺いました。
半田さんは、ご自身が中高生の時に「CHUKOらんどチノチノ」の立ち上げに携わり、そして現在は高校生らと共に「ヤツガタケマート」を運営されています。ご自身の活動を「子育て」支援でなく、「子育ち」支援と語る半田さんに、子どもを支えるまちづくりの哲学をお聞きしました。

私は、これまでの人生で多くの夢を叶えてきましたが、その秘訣は「できるまでやる」という考え方にあります。アフリカのマラウィに留学していた時、どんな干ばつでも必ず雨乞いを成功させる部族がいると聞きました。彼らは「できるまでやり続ける」ことで100%成功させているのです。このエピソードに感銘を受け、私も夢は「叶うまでやり続ければ叶う」と信じています。
私の子供の頃の夢は学校の先生になることでした。幼少期から、親と子が一緒に演劇を鑑賞し、次にどんな劇団を呼ぶかといった話し合いにも子どもたちが同席する「親子劇場」や、子どもだけで1週間北海道へキャンプに行く「キッズキャンプ」のような体験を通して、多様な年齢や背景を持つ子どもたちと関わる機会が多くありました。こうした経験が、私が子どもと関わりたいという思いを育みました。
中高生のための居場所「チノチノ」の立ち上げ
2001年、私が高校2年生の時に、中高生のための居場所「CHUKOらんど チノチノ」の設立に関わりました。これは、後に私のまちづくりや中高生の活動支援の原点となる経験です。当時、私は地元の高校に通っていましたが、駅前に高校生が集まっているだけで学校に連絡がいき、先生が駆けつけるなど、この地域はあまり居心地の良くない環境でした。
そんな時、市役所が高校生の意見を聞くフォーラムを開催しました。テーマは「30年後にどんな街にしたいか」というものです。そこで私は「将来のことよりも、今この街に僕たちの居場所がない。この居心地の悪さをどうにかしてほしい」と発言しました。通常であれば聞き流されるような意見でしたが、当時の市長が意見を受け止めてくださって、ベルビアの空きスペースに中高生の居場所を作ろうと考えてくださいました。市長は「パートナーシップのまちづくり」を重視し、「中高生の居場所をつくるなら中高生が考えるのが一番だ」という考えでした。
そこで、市内の中高校生24人が集まり、子ども建設委員が組織されました。施設の設計から、利用規約、運営方法、イベント企画、予算の使い方まで、すべて私たちに任せてもらえました。大人に信頼され任せてもらえたからこそ、私たちは当事者として主体的に活動することができたのだと思います。
もちろん、駅前の一等地に「不良のたまり場を作るのか」という大人たちの不安や苦情も市役所に殺到しました。私たちは担当課にお願いして大人たちに直説明する場を設けてもらい、そこで私たちは「自分たちでこの場所を守っていくので、信頼して任せてほしい」と伝えました。
このプロジェクトは、フォーラムで「居場所が欲しい」と訴えてからオープンまでわずか8ヶ月という異例のスピードで実現しました。議員という立場になった今だからこそ強く感じるのですが、この期間で何億という予算を提出した市、その予算を認めた議会、そしてそれに理解を示してくれた地域、多くの大人の方が私たちを支えてくれたのだと改めて驚かされます。
このチノチノ建設の経験を通して、自分たちの居場所を自分たちで作れたという自己肯定感や子どもたちと地域の大人が一緒にまちづくりをすることの大切さを学びました。今はこの時の恩を地域に返せるように、当時の大人のような中高生を支える立場として活動をしていきたいと思っています。

ヤツガタケマートの開設と新たな挑戦
駅前には、私自身も高校時代に大変お世話なった老夫婦が経営するコンビニがありました。しかし、店主の高齢化とコロナ禍の影響で2年前に閉店、駅を利用する高校生や近隣の地域の方にとって不便な状況が続いていました。
そんな中、この場所が資材置き場になってしまうかもしれないという話を聞き、周りの高校生と話す中で「やっぱりコンビニが欲しい」ということで自分たちでコンビニを復活させるためのプロジェクトが立ち上がりました。
高校生たちは改装のデザインを考えたり、仕入れる商品を検討したりと、単なるアルバイトではなく、自分たちの店を一緒に経営する「経営者」として関わってくれています。
このプロジェクトの目的の一つは、「子どもたちが夢を実現することのできるお店」を作ることです。「将来カフェをやりたい」「将来服をデザインしたい」という子どもたちが、将来ではなく「今」やりたいことを実解できるようこの店舗を活用していきたいと思っています。
もう一つ、このプロジェクトの目的は、「地域の人のお金の使い方を変えたい」というものです。
私がチノチノを作った時もそうですが、行政や地域にお金の余裕がある時は子どもたちの活動に予算がつきますが、財政が厳しくなるとそれは難しくなる。そもそも子どもたちが活動するために助成金や寄付金に頼っていると活動ができなくなってしまうという現状がある。誰かのお金に頼るのではなく、自分たちが経営するコンビニの利益で自分たちのやりたいことを実現できるようになればと考えています。その上で地域の人には何かを買うときに「どこのお店で買うのか」を意識するようになってもらえたらと思っています。他のコンビニやスーパーではなく、ヤツガタケマートで買い物をすればそれが子どもたちの地域活動につながっていく。水一本、ビール一本の買い物でも、そのお金が後に子どもたちの活動に繋がると思えれば気持ちがいいのではないでしょうか。この活動を通して、普段の消費活動をいかに地域に役立つ消費に変えていくかという意識が広まれば良いと考えています。

現在の課題と子どもを支えるまちづくりの哲学
ヤツガタケマートはオープンして2ヶ月ですが、売上は想定の4分の1しかありません。一日20万円の売上が目標ですが、現在は5万円程度で、一日300人目標の来店客数も70人ほどです。毎日お弁当やおにぎりを廃棄していることも利益になっていないという以上に食べ物を捨てている精神的な辛さもあります。ヤツガタケマートのある東口のルートがあまり高校に利用されていないことも課題なので認知度を上げていきたいと考えています。
また、お客様にはヤツガタケマートならでわの商品を求めている方も多いので、地域の農家から規格外の野菜を仕入れたり、地元の飲食店のお弁当を販売したりすることで、地域に根ざした商品展開も強化したいと考えています。
いまのメンバーが全員高校3年生なので、卒業後の後継者探しも大きな課題です。中学時代にコロナ禍で文化祭などの学校行事が中止になり、自分たちで何かを企画し、達成する楽しさを経験できていなかったことが、今の高校生たちが地域活動への関心の低さにつながっているのではないかと感じています。
私はヤツガタケマートの実践もそうですが「子育ち支援」が重要だと思っています。「子育て支援」が親への支援に重心があるのに対し、「子育ち支援」は子どもがどう育ちたいかに焦点を当てた支援だからです。大人が「こう育ってほしい」という理想を押し付けるのではなく、子ども自身の「こう育ちたい」という思いを応援することが大切だと考えています。
私が高校生でチノチノの立ち上げに関わった時、最初の会議では集まった中高生の周りにをたくさんの大人がいて話しづらい雰囲気だった。そこで大人の方たちに退席をお願いしたところ、本当に彼らが席を立って出て行ってくれた。それ以降、子どもたちだけで話し合い、その結果を大人たちの会議で報告し、フィードバックをもらうという仕組みができました。茅野市はこういう子どもを信頼し任せる「子育ち」の理念を持つ地域だと感じています。
チノチノ立ち上げのときも、多くの大人が陰で調整をしてくれていたのだと思いますが、彼らは決して「大人が頑張ったからできたんだぞ」とは言わず、私たち子どもに「自分たちの成果だ」と思わせてくれた。ここで得た自己肯定感がすごく強くて、私のその後の人生に大きな影響を与えています。
ヤツガタケマートでも子どもたちが「自分たちの成功」だと感じられる場である事を大切にしています。そのためには大人が「やりすぎない」ことが重要で、子どもたちに任せるべきことは任せ、大人にしかできないことだけを大人がやる。子どもたちが自ら気づき、行動するまで待つのはもどかしい時もありますが頑張って耐えています。
地域の大人は、親や学校の先生とは異なり、子どもの成長に責任を負わずにいられる立場だからこそ、子どもの「こう育ちたい」という思いを、成功や失敗を問わず、純粋に応援できる唯一の存在だと考えています。
親や学校の先生だと、どうしても子どもたちに「こう育って欲しい」という思いがでてしまう、でも地域の大人は子どもの成長にいい意味で責任を負わずにいられる立場だからこそ、子ども自身の「こう育ちたい」という思いを、成功や失敗を問わず、純粋に応援できる唯一の存在だと考えています。だからこそ、まちづくりは地域の大人と子どもたちが一緒にやることが重要だと思っています。
以前茅野市には「ぼくらの未来プロジェクト」というまちづくりの取り組みがありました。ある時、街の本屋さんがなくなったことを課題に感じた高校生たちが古本を集め、古本カフェを開こうというプロジェクトを行いました。地域の人たちの協力で多くの本を集め、当日のカフェや古本の売上で中央病院の小児科の待合室に絵本を買って寄付することもできました。子ども達にとってはとても大変な取り組みだったと思いますが、大人に言われたからやったのではなく、自分が「やりたい!」と思って始めたことだからこそ、最後まで自分のプロジェクトとして責任を持って取り組み成功したのだと思います。
この「責任を持たせてあげる」ということも子どもと行うまちづくりでは大切だと思っています。子どもに限らず、「失敗したらあなた責任負えないでしょ」と言えば言われた側は自由にやることができなくなる。責任をとりあげられると、人は自由に何かをすることができません。子どもたちに自由な発想で活動をして欲しいと思うのであれば「いかに大人が責任を取りあげずに、子ども自身に持たせてあげるか」ということが大事だと考えています。
私自身も、子どもたちには、自ら責任を負ってでもやりたいことをやっているという大人の姿を見せられるといいなあと思っています。

【開催実績】
まちづくりは「自分ごと」から始まる!地域と人をつなぐ半田 裕さんに聞く
ゲスト:半田 裕(はんだ ひろし)さん
原村在住/株式会社createC代表取締役/NPO法人ちゃいるどふっど代表理事/原村議会議員企画・コーディネーター:田子(牛山)直美
日時:2025年7月4日(金)18:30-20:00
会場:ワークラボ八ヶ岳(ベルビア2階 茅野駅直結)
参加費:無料
主催:ワークラボ八ヶ岳(指定管理者:一般社団法人まちライブラリー)
https://wly.jp/to