日本の宇宙開発利用の変化とこれから
2024年1月より、文化・ビジネス、地域ソリューションなど様々な領域からゲストスピーカーを迎え、トークセッションやミートアップを定期的に開催する「ワークラボ八ヶ岳・ビジネストークイベント」がスタートしました。
第一回目は、ゲストに東京大学大学院工学系研究科の中須賀真一教授をお招きし、「宇宙―イノベーションとビジネス的視点―」というテーマで開催しました。
皆さんは私たちの生活が「宇宙」とどのように関わりがあるか考えたことはありますか。
日頃何気なく目にしている天気予報や衛星テレビ、携帯電話やカーナビの位置情報(GPS機能)は、宇宙に打ち上げられた人工衛星からの情報を元に利用されています。
これまで政府を中心に打ち上げされてきた衛星ですが、近年ではその主体は、ベンチャー企業など民間の企業に移っており、政府が企業へ委託するという動きに変わりつつあるそうです。
膨大な時間やお金が必要に思える宇宙開発ですが、なぜ一般企業が着手できるようになったのか、宇宙開発がビジネスにどのような影響があるのかを中須賀教授にお話しいただきました。
“大”から“小”へ、“質”から“数”への変化
これまでの宇宙開発は政府機関を中心に行われてきましたが、近年では大学の研究室やベンチャー企業が積極的に携わっているそうです。
なぜそのような変化が起こったのでしょうか。
これまでの宇宙開発では、お金をかけて精度の高い衛星を完成させて打ち上げることが目的とされていましたが、現在はコストを減らし、少し質を下げてでも小さな衛星を数多く打ち上げることが主流とされています。その理由は、中・低軌道に多数の小型衛星を打ち上げ、連携して運用し、宇宙を活用した様々なサービスの機会を増やすためだそうです。例えば、衛星の数が多く衛星同士の距離がより近づくことでインターネット回線の強度が高くなり、宇宙にいてもインターネットが使える、地上と通話できるようになるといわれています。また、多数の衛星があることで短期間での地球観測が可能となり、より正確なデータを取得することができるようになるそうです。
このようなサービスをベンチャー企業等が開発・運用を行い、政府にサービスを販売する、という動きに変化しています。
大学の研究室で生まれた小さな衛星が踏み出した大きな一歩
中須賀教授の研究室では、東京大学・東京工業大学の学生が主体となって超小型人工衛星「CubeSat(キューブサット)」を開発し、2003年にロシアで打ち上げを成功させました。そのサイズはわずか1辺10cmの立方体、重さは1kgと手のひらの上に乗ってしまうほどのサイズで、当時世界最小の人工衛星の打ち上げだそうです。
この超小型人工衛星は秋葉原で調達してきた電子部品で作られており、現在もなお宇宙で稼働を続けています。
以降、超小型衛星の開発が注目されるようになり、当時は数百億円かかるため、失敗を許さない、実証回数が少ないとされていた宇宙開発が、よりコンパクトに、低コストで行えるものという認識に変化していった結果、ベンチャー企業や大学の研究室での開発などの取り組みがなされるようになったそうです。
現在中須賀教授は、宇宙開発ビジネスが行えるような宇宙開発ベンチャー企業の設立や、宇宙開発において発展途上国である地域に赴き、超小型衛星をベースにした宇宙開発教育などに貢献しています。
また世界中の大学と連携して宇宙研究開発を行っているUNISEC-GLOBAL(ユニセックグローバル)というコミュニティの委員長を務め、他国の大学と連携し地球環境問題解決に繋がる衛星作り等の共同プロジェクトにも取り組んでいるそうです。
日本の宇宙ビジネスの課題と可能性-宇宙×○○を生み出す力
今回のビジネストークで印象的だったのは、「技術の向上度=(1+a)ⁿ、a=1回の実証の技術向上、n=実証の頻度である」という中須賀教授の言葉です。技術の向上にとって最も大切なことは、一回の実験に時間をかけるよりも、実験の回数を重ね、失敗を元に改善を図ることをあらわしています。これまでの日本の宇宙開発の傾向として、一度失敗したら技術の向上に時間をかけて注力し(aを重視する)、それにより実証実験の回数が減ってしまうことで(nが減る)海外の宇宙開発との差が開いてしまいました。
しかし、超小型衛星の開発が主流となり、大学の研究室、ベンチャー企業の参入してきた今だからこそ宇宙ビジネスのチャンスがあると中須賀教授は言います。
超小型衛星により様々な新たなサービスが生まれ、そこで得た収益によりまた新たな宇宙開発が展開されていく、宇宙を使うことで日本の産業を大きくしていくことができると語ります。
現在、日本には、和歌山県の串本町に国内初の民間小型ロケット射場があり、小型衛星の商業宇宙輸送サービスの展開を目的に建設されました。この周辺地域では、衛星開発企業や、宇宙開発に必要な部品を取り扱う企業の誘致、地元の高校で宇宙コースがスタートするなど、宇宙開発を中心とした地域の活性化、ビジネス・教育の発展が期待されています。
地方においても宇宙ビジネスの可能性はあり、地域の産業を生かすことが宇宙ビジネスの鍵だそうです。農業・林業・漁業など自然リスクが大きい産業に宇宙の情報をどのように活用するか、地域で共有できる装置をどのように作るかなど、アイディアが求められます。
中須賀教授は、最後に、
「これから先、世界はどんどん変化し、まだまだ多くの課題があります。しかし今後起こりうる課題を想定できていれば、大きなビジネスチャンスに発展する可能性があります。私たちの周りに溢れる宇宙ビジネスの可能性からアイディアを生み出し、行動してくことがこれから宇宙開発においても、ビジネスにおいても求められていくでしょう」という言葉で宇宙×ビジネスのトークを締めくくりました。