「パーソナル介護サービス」は介護で分断された家族の形を取り戻すこと伊藤郁美さん(パーソナル介護士代表)

今回は、パーソナル介護士の伊藤郁美さんに話を伺いました。伊藤さんは18歳から携わった祖母の介護を通して新しい「パーソナル介護サービス」を考案しました。2022年4月に個人事業主として独立し活躍しています。

パーソナル介護士サービスの特徴は、介護保険サービスとは異なり、利用者と家族の両方の幸せを目指すことです。また、介護士が制服を着用せず、家族のように接することで、より自然な関係性を築くことができること。さらに、毎月第二水曜日に「優しい時間」という介護相談会を開催し、介護に関する情報提供や相談を行っていることも特徴の一つといえます。

介護保険サービスとは異なる伊藤さんの「パーソナル介護サービス」とはどのようなものかお聞きしました。

祖母と私、両方幸せにするサービス

私は18歳の時から祖母の介護をしてきました。その時は、本当にいつまで介護が続くんだろう、「早く死んじゃえばいいのに」ってひどいことを思ってしまうほど出口が見えなくて、「誰か助けて!」と心の中で叫んでいました。

祖母は介護保険サービスをフルに使っていましたが、それで私の気持ちが晴れることはなかったです。介護士やヘルパーさんは、「そんなに自分1人で抱えなくてもいいんだよ」「無理しないでいいよ」と言葉をかけてくれるんですが、私の心の苦しさを取ってくれるサービスはありませんでした。

無理しないでねって言われても、私がおばあちゃんを看なければならない…。

その時、祖母が笑顔になる、安心して預けられるサービスがあって、私も祖母に「ありがとう」と言えるサービスがあればいいのにと思いました。祖母と家族の両方を幸せにするサービスをいつか必ず作る! あの暗闇の中でずっと考えていたのが、私の「パーソナル介護サービス」の始まりです。

祖母は、認知症もひどくて脳梗塞も患って体に麻痺があり、ショートステイやデイサービスに行っても断られてしまうケースもあって、介護する側からすると困難なケースでした。

そういう中で「無理しないでね」という言葉じゃなくて行動で示してくれる人は、当時のケアサービスの方々の中にはいなかったんです。

まずは無料でいいからやってみる

それから、自分はいつか祖母と私をハッピーにしてくれるサービスを作るんだと、介護をしながら本を読み漁り、資格を片っ端から取るという生活をしていたんですが、結婚して夫に「お前はいつまでそんなことをしてるんだ!」と、本を読んでも、資格をとっても何も変わらないじゃないかって結構強く言われて、これが私の背中を押すきっかけになりました。

それで、2022年に「ドリームプラン・プレゼンテーション信州(通称ドリプラ/https://peraichi.com/landing_pages/view/dreplashinshu/)に参加したんです。

私は、2022年の4月に個人事業主として「パーソナル介護サービス」を立ち上げたのですが、当時、私の周りには真っ暗闇のトンネルの中にいる人たちがたくさんいました。
それで、まずは、その人たちの少しでも光となれるようなことを無料ではじめました。

それを続けていくと「いいね」って言ってくださる方が現れて、 そうしたら、お金を払ってでも来てほしいと言ってくださる方が現れて、その方が別の方を紹介してくれて、また次の方を紹介してくださるという…、どんどんお金が回る仕組みが勝手にできていったっていう感覚でした。

パーソナル介護サービスは「何でも屋さん」ではない

「パーソナル介護サービス」は、介護保険でなく自己負担で費用をお支払いいただく仕組みなので、決して安くはありません。

最初は、何か目に見えない、人の優しさのようなものに対してお金をいただくことに抵抗がありました。でも何ヶ月かサービスをやっていくうちに、「そうじゃないよ、お金を払ってでもあなたに来てほしいんだ」という言葉を何度も聞くようになり、お金や価値を生み出すことってこういうことなんだと感じました。 そこからはサービスの対価をいただくことに自信を持ち、営業もできるようになりました。

先に言った通り「パーソナル介護サービス」を利用しようとすると、介護保険が使えないんですね。サービス料は、全額利用者の負担となるため、逆に「何でも屋さん」と間違われてしまうことがあります。

以前、ご契約いただいていたお客様から、例えば、通販の化粧品の購入のために名前と住所を貸して欲しいといった介護以外のことを要望されることが度々ありました。

こうしたことがあって自分の業務範囲を強く意識するようになり、誰彼でも契約していいわけじゃないんだということに気づきました。

私がやりたいのは、介護保険外サービスと世間で言われている大きなカテゴリーでない。私のターゲットとするお客様は、私が心の底からハッピーにしたいと思える方、そして、私と一緒に楽しく幸せに向かって行こうという気持ちを持っていらっしゃる方なんだと思いました。

「願いのノート」にお客様と家族の言葉を書き留める

「パーソナル介護サービス」の一つのエピソードをご紹介しましょう。例えば、介護サービスの場合は、ヘルパーさんが一人暮らしのおばあちゃんのところに行って、おばあちゃんに手伝ってもらいながら一緒にシチューを作る、というシンプルなものです。

一方、「パーソナル介護サービス」は、介護を受けるご本人とご家族の両方がハッピーになることを目的にしているので、まず、私は「願いのノート」を書きます。お客様やご家族と会って話をした時に発した言葉や何が好きなのかなどを書き留めておくんです。

実際に私が認知症のお母さんを介護した時、その娘さんが「お母さんの作るシチューが好きだった」と言っていたのでノートに書きました。それを覚えておいて、一緒にシチューを作る時、私は、認知症のお母さんにかつて子育てをしていた昔の母と娘の感覚に戻ってもらうように声掛けをします。

「娘さんがシチュー食べたいって言っていました。私が一緒にいればできますよ。ちょっとでもいいからやってみましょう」と声をかけて一緒に料理を作ると、認知症のお母さんがどんどん当時の感覚を思い出して、シチュー作りを手伝ってくれるんですね。

出来上がったシチューを娘さんが食べて「お母さん、シチュー作ることができたのね」と言うと、認知症のお母さんが「できるに決まっているでしょ。あなたがいてくれればできるのよ」と応えるんです。娘さんは涙していました。これ本当の話です。

パーソナル介護サービスは、分断された家族の形をもとに戻す

「パーソナル介護サービス」は、介護を受ける側も介護する家族も両方に「ありがとう」の気持ちを思い出させることによって、介護によって分断された家族の形をもとに戻すことが特徴です。

例えば、お掃除一つとっても、ダスキンさんのような専門業者さんもありますが、私の場合は、ピカピカに綺麗に掃除することよりも、介護を受けるお客様が家族から「ありがとう」って言ってもらえるところを探して深めていきます。

家族がいつも玄関を利用していれば、玄関をピカピカにして目につく場所に綺麗な花を添えて、家族がそれに気づいて「おばあちゃんが伊藤さんとやってくれたんだってね。 ありがとうね」って言える瞬間を作っていくということです。

服装1つにしても、ヘルパーさんや介護士さんは動きやすいジャージを着ていますが、私は娘や孫に間違われるような、それこそデートに行く時のようなワンピースを着たり、ヒールの靴を履いたりして、病院に一緒に行く時に「娘さんですか」って言われることを目標にして、こだわっています。

制服を着た人が車椅子を押していたりすると、周りの人たちは、制服を着た介護士やヘルパーさんに話をして、おばあちゃんが「わからない人」として扱われることがよくあります。

おばあちゃんを一人の人として大事に扱ってもらうために、私は孫役や娘役を演じきるんです。私のお客様は、「伊藤さんと一緒に病院にいくと、お医者さんや看護師さんがやさしいんだよね」と言ってくれるんです。

「優しい時間」―大切な人にハッピーな時間を過ごしてもらう相談会

私は、毎月第二水曜日に「優しい時間」という介護相談をやっています。誰でもふらっと来られて、「介護」というキーワードを使わずに親がこれから老いていく時に困らないための知識を得る場です。介護は情報戦だと思っていて、介護保険サービスだけでなく、他にも多くのハッピーなサービスがあり、もっと自分が選択できることを伝えたいと思っています。
例えば、リハビリパンツとオムツの違いなんて介護に関わっていないとわからないし、リハビリパンツも色々な種類があるんですよ。また、デイサービスの選び方についても、食事やお風呂の状況、機械のお風呂があるらしいけど本当に使い心地がいいのかなど、利用者目線で自分の大切な人がそこでハッピーな時間を過ごせるかどうかということをリアルに想像できる情報をお伝えしています。

グラフィックレコード 杜のくじら舎 三澤

【開催実績】

世の中にない新しいサービスを生み出すとは?パーソナル介護士の伊藤郁美さんに聞く
ゲスト伊藤郁美さん(パーソナル介護士代表)
企画・コーディネーター:田子(牛山)直美
日時:2025年4月18日(金)18:30-20:00
会場:ワークラボ八ヶ岳(ベルビア2階 茅野駅直結)
参加費:無料
主催:ワークラボ八ヶ岳(指定管理者:一般社団法人まちライブラリー)
https://wly.jp/to