【イベントレポート】“イノベーションはどうしたら起きるのか”竹林一さん、高橋健三さん、まちライブラリーの礒井が語る

イベントレポート

ワークラボ八ヶ岳 イノベーション倶楽部

『たった1人から始めるイノベーション入門」著者、竹林一さんと語り合う会より

多種多様な人に集まってもらい情報を共有し、よりよい地域、社会へつなげていこうと始まったワークラボ八ヶ岳のイノベーション倶楽部。今回のゲストはまちライブラリー草創期とも関係の深いおふたりです。オムロン株式会社イノベーション推進本部シニアアドバイザーで昨年末『たった一人からはじめるイノベーション入門』という著書を出版された竹林一さんと株式会社スマイルマーケティングCEOの高橋健三さん。なぜ今イノベーションが必要なのか、イノベーションはどのようにしたら起きるのかをお話いただきます。

竹林:こんにちは!今日は『たった1人から始めるイノベーション入門』ということでお話をしていきたいと思っています。まずは簡単に自己紹介から。京都生まれで血圧計などを作っているオムロンという会社にいたり、京大の客員教授をやったりしています。ほかにも新規事業を立ち上げて会社経営をしてきました。ソフトの会社とか赤字の生産会社を立て直すとかヘルスケアの会社の立ち上げとかをやってきました。そして今何をやっているかというとイノベーション。

なぜかといいますと、あるときオムロンの中にイノベーション推進本部というのができたんです。新規事業を立ち上げろではなく、「イノベーションが起こり続ける仕組み」を作ってねと。そのとき僕はもう定年を過ぎていたし、そろそろ会社を辞めようと思ってたんですよね。そしたら会社の代表に「辞めて何すんねん」ていうわけです。好きなことをしたいと答えたら「今でもしてるやん」ていうんですよ。そう言われたら反論のしようがなかった(笑)。そうしたら、若い人がイノベーションをどんどん生み出せる仕組みを作ってね、そしたら辞めていいよって言われた、それがきっかけです。

イノベーションね、これやらん方が楽です。なぜかというとイノベーションやろうとするとハレーション起こるからです。「なんでそんなやらなあかんねん!」「今まで通りでいいやないの!」っていうやつです。ただ今まで通りで生きていられたらいいんですけれども、だんだん色々なものが変わっていくから今まで通りに生きていけないんですよ。

この本の中で何言うてるのか。

去年の12月24日に「たった1人からはじめるイノベーション入門」という本を出版しました。この本の中でイノベーション、変革しようと言っているんですけれども、その中で何が一番大切かというと、「WILL」「何をやりたいか」なんです。だいたい何やりたいの?て聞かれてもそんなこと考えたことないわーって答える人がほとんどですよね。

僕だってあんまり考えたことなかったんです。ところが15年ほど前、僕のところに新しくきた部下がやりたいこと100個くらい書いてきたんです。「これが私のやりたいことこの100個です!

竹林さんはやりたいこと100個もないでしょう?」って言うんですよ。それ聞いてちょっとムカっとしましてね、それから書き始めました。仕事でやりたいこととか、やらねばならないこととかじゃなく、純粋にやりたいこと。むしろ仕事を通じてやれへんこと。家族でやりたいこと、行きたい場所とか食べたいものとか、すごいことは書いてないんです。でもそれから毎年続けています。

目標管理じゃないんで達成できたかどうかはどうでもいいんですけれど、書いておくと自分がこれやりたかったんだってわかる。

要するにこの「WILL」が人を動かしているんです。論理プロセスではなく、この思いで動いている。この思いがないのにきれいなビジネスモデルだけ書いてもうまくいかない。儲けだけじゃなく、ほんまにこんな世界を作るんやって、こんなおもろい世界できる。というその思いで集まった人たちとだけ、会社を立ち上げきましました。

じゃあこんなことがやりたいと思ったら世界観を作るってことが重要なってくるって言う話をさせていただきます。

今まで創業者と呼ばれる人たちが世のビジネスを作ってきました。それはとっても大切です。この地域もここまで発展させてきた人たちがいる。ところが仕組みとかモデルとかってちょっとずつ腐り始めてくるんです。僕ら人間も会社もそうですけど、おんなじビジネスモデルでそのままってなかなかない。

よくうどんの話をするんです。例えば美味しいうどんでもね、30年も経ったら腐ってくる味が落ちてくるんです。それでも「このくらい大丈夫だからまだまだいくでえ!」って言う。「流石にあかんわあ〜、これ腐ってますわあ」っていうくらい腐ってきてやっと新しいうどんをつくらないとあかんとなるわけです。でもその腐ったうどんの上にカレーをかけてカレーうどんですっていう。そんなのは新規事業ちゃいますから。

いまあるうどん自体が腐ってきてるんだから、新しいうどんをつくるか、スパゲティにするのかやりかたを変えなあかんという話なんです。今までの延長線上でさらに眉間にしわを寄せてがんばったってだめ。軸を変えないとあかんなというお話をさせてもらっています。

北海道の旭川市に旭山動物園というのがあります。一時潰れかけていた動物園です。その頃の年間の来場者が26万人だったのが、今では300万人くらいの人が行ってはるんです。

何かすごいことをやったのか。パンダ100匹いますか? 1匹もいないんですね? レッサーパンダはいますっていうんで、先月行ってきたんです。ほんとにいるのかなーって思ってね。レッサーパンダ5匹いましたけれど、レッサーパンダ5匹で300万人集めるのはしんどいんですよね。

じゃあ何を変えたか。

動物を見せる動物園は世界中にいっぱいありますね。でも動物の行動を見せるっていう軸で考えた動物園ってないんです。アザラシって普通だったらその辺で寝とるんですけど、海の中で見ると海中を上がったり下がったりするのが大好きなんです。そこで円筒型の水槽を作っておくとここを上がったり下がったりする。それを周りで見ているとときどき目があうんです。それをパチって撮って、そのままインスタに発信。そうすると私も会いたいわーっていう人がまた来はるということです。

イノベーションつてゼロからイチとか言うのですが、それだけでもないんです。今せっかくあるいいもん、地域のいいもん自分の会社のいいもん。それをどの角度から見たらいいのかっていう話だと思うんですね。

僕、YOUTUBERで竹林―の「竹林一のし~ちゃんねる」という番組もやっていて、こういう発想の転換をした人にもいっぱいきてもらって話を聞いてるんですね。

ゼクシイっていう結婚の情報誌の会社にパートとして入って、後に統括編集長までになった伊藤綾さんという方がおられます。最初はパソコンの電源の入れ方もよくわからなかったようです。彼女が全部の現場をみて、たくさんの花嫁の声聞いて、結婚式って当日のその3時間のためにあるんじゃないなって思いついたんですね。そうですよね。結婚式で終わりだったらその後ゼクシイはもう買いません。それで結婚式を「これから始まる2人の60年の最初の始まり」っていう方向に軸を変えたんです。

そうすると広告主も結婚式場とかが主だったのが、結婚後の生活も見据えた料理教室とかが増えてくる。それから付録も結婚した後に役立つものをつけて大ヒットしたんですね。これゼロイチでイノベーションやって違う雑誌を作ったわけじゃないんです。そこにファンがいる、会社にはいろんないいものがある、それをどの角度で見たらいいことが起こるのかと言う話ですよね。

もう1人、羽田空港の中に魚市場作っちゃった羽田市場の野本良平社長にも来てもらいました。普通魚市場っていうとトラックで運んでくるイメージですよね。彼はもともと大手居酒屋チェーンの役員で、1年に100日以上船に乗っていい魚を買いつけるという仕事をしてたんです。そうしたら漁師さんの収入がものすごく低いっていうことと、トラック運送業界は手一杯っていうこと。それでいて新鮮な魚は高いってことを知ったんです。だったら空輸して持ってきたそこでさばいたら、それまで物流にかかっていたコストを漁師さんに還元させてあげられるんじゃないかと、それで回るっていうビジネスモデルを作ってきました。これも逆転の発想。

魚は新鮮な方が高いから飛行機で運んだらええやん。北海道からきた魚はその日のうちに日本全国に持っていけますっていう体制にトランスフォーメーションしたんですね。

動物の行動を見せるようにしたらおもろいで、結婚式を60年の始まりにしたらアイデアが膨らむで、そして空港に魚市場作ったらおもろいで、となったら次に大切なのが仲間集めです。次はどんな仲間を集めなあかんのかをお話しします。

(中編は、写真の後に続きます)

多種多様な人に集まってもらい情報を共有し、よりよい地域、社会へつなげていこうと始まったワークラボ八ヶ岳のイノベーション倶楽部。「たった1人から始めるイノベーション入門 中編」をお届けします。オムロン株式会社イノベーション推進本部シニアアドバイザーで昨年末著書を発行された竹林一さん。前編ではイノベーションを起こすには思いと軸の変換が必要というお話をいただきました。今回は具体的に動かすために必要な人材とはどんな人か、そんなお話を聞いていきましょう。

竹林:「WILL」があって方向性が決まったら、次は人を集めることが大切です。どんな人が必要かというと「起・承・転・結」4つの人材です。

「起」の人材というのはゼロからイチを発想できるような人です。この地で、精密技術を活かしてこれ作ったら面白いのとちがうかと最初に思いつかれるような人ですね。

次に「承」の人っていうのは起の人が言うことを整理してグランドデザインを描き、ストーリーを創り発信する人です。例えば動物の行動を展示してみようかとか、ストーリーを創り仲間を集めてくることとかができる人。

それを実際に進めようとしたときに大事になってくるのが「転」の人なんですね。ちゃんと事業計画立てているか、KPIをちゃんと設定したか、お金はあるかっていうのは「転」の人が得意なんです。動物の行動を見せようとなったときに「アザラシやったらどうする」「オオカミやったらどうする」っていうのをきっちり考えてくれる人。

「結」の人がまた重要でこのオオカミにちゃんと餌をやってくれる人。現場のオペレーションきっちり回してくれる人。

この「起」「承」のタイプがイノベーターと呼ばれる人です。

でもどの人が一番偉いというじゃなくてどれも必要なんです。「起」の人はほぼ妄想設計です。「承」の人がお前のいうてることはこういうことなのとちゃうかーって言って、「転」の人がこうすれば儲かるんとちゃうかーと言う。それで「結」の人が「ほな私が担当、運営をするわ」というのがうまく回っているかどうかが重要になってくるんです。

高度成長期を引っぱって来た日本の企業はとても面白くってですね、「起」「承」は創業者、「転」「結」は番頭さんという役割の人が担っていたんです。これでうまく夢とロマンを語りながらきっちり現場も抑えていくっていうことがやれていた。

ところがいま、創業者はほとんどいなくなりましたよね。何十年も経っても、うどんがそのままなら番頭さんだけいればいいんです。でも世の中が変わっていきますから、イノベーションとかトランスフォーメーションが必要になる。「起」「承」の人がいなくなったら、もう1回軸から考え直した方がいいよって話なんです。

成功させるためにはマネージメントも大事ですね。

「転」「結」の人たちは決まったことをきっちりやってくれます。来年はどれだけ効率上げていくか、売り上げを上げていけるかっていう目標を設定して目標管理することができます。

でも「起」「承」の人は目標自体を自分で考えていくわけです。そのタイプの人に目標管理でマネージメントするのは向いていません。

どっちがいい悪いじゃなくて組織の中にどっちも必要なので、「転」「結」の人たちと「起」「承」の人たちとの連携をきちんと取ることがポイントなってくる。

では連続的にビジネスを立ち上げている人というのはどんな思考で動いているんでしょう。

そんなことを研究した人がいまして、インド人のサラス・サラスバシー先生という方です。こないだお会いしてディスカッションしました。

彼女は連続的に事業を立ち上げている人はどういう人で、どういう思考パターンで動いているのか研究をしていて、従来型の目標を設定してやる方法を考えるという思考パターンに対してどう違うのかをまとめられています。普通は100億のビジネスを立ち上げるためにはどうしようと考えます。企業なんかはそうですね。ところが、連続起業家はとりあえず想定内の損失の範囲内ならまずやってみようという話なんです。FacebookとかAmazonとかありますけど、この人たちは目標を設定してきっちりマーケティングして、3C分析したんじゃなくて、私これ得意やからやってみよう、これでお客さんついてきたなら今度はこの方がおもろいでって回しながらビジネスをでかくしていってるんですね。

サラスパシーさんが整理した5つの原則ってあるんですけど難しいんで、関西弁になおして5つの「な」の事に置き換えてみました。

1つ目は自分が「なにものかを知っている」 例えばこの地域だったらこの地域には何ものであってどんな資源があるのかを知っているっていうことですね

2つ目は「なんぼまでやったら損してもええねん」 いきなりものすごい金かけてやってみて失敗したら困りますんで、できるところからやったらええねん。

3つ目は「なかまを増やせ」

4つ目は「なにが起きてもプラスにする」

5つ目は「なんとかなることに集中する」

ようは多くの仲間の意見を聴き、何が起きてもプラスにしていく。そして外部環境等のせいにせず、コントロールできることに集中していく。これをできる人が成功しているんですね。

これってどこかで聞いた話やなあと、日本でいうところの「わらしべ長者」ちゃうかーと思ったんで、京大では「わらしべ長者を科学する」って言ってます。

わらしべ長者ってわらを持って歩き始めたらアブが飛んできたので、アブを捕まえてわらにしばったら、わらの周りをアブがぐるぐる飛び回って、通りすがりに泣いてた赤ちゃんがそれを見て泣き止んだ。赤ちゃんを背負ってたお母さんが「そのわらを譲ってください。代わりにみかん3個あげます」って話ですね。みかんもって歩いていたら今度は喉がかわいた商人が出てきて、みかんが反物に変わる。その後もどんどん物々交換が起こって最後には屋敷と田んぼが手に入るという話しなんですね。この物語の中にビジネスのヒントがいっぱい入っているのでご自分でも考えてみるといいです。なんで「わらしべ長者」はみかん食べへんかったんかなーとか、何故等価交換以上のものに変わっていくかとかね。

YouTube「竹林一のし~ちゃんねる」の最新のゲストは切腹最中の人です。新橋に切腹最中っていう最中を売る和菓子屋さんがあるんです。サラリーマンの味方とはしがきがある。サラリーマンが失敗して謝りに行くときに持って行く最中がこれなんです。だいたい謝りに行くときに軽いものを持参していったらあかんのですね。とらやの羊羹とかでずっしりと重くなかったらあかんのです。それゆえに名前も切腹最中。義理のお母さんは泣いて切腹最中なんて名前だけはやめてくれって言った。150人くらいにアンケートをとって、そのうちの149人がそんなものは買わないと回答した。たった1人だけがおもろい言うたらしい。その1人に賭けてみたらしいんです。そんな話をしていただきました。

そして最後ですね。

イノベーションイノベーション言うんですけどね、結局イノベーションって結果だと思うんです。信念を持ってやり始めると、助けてくれる人が現れる。最後成功したときに周りの人があの人がイノベーションを起こしたと言うてるだけのこと。

WILLから始まって、それをどういう見方でやったらおもろいかを考えて、自分でできないところは得意な人に来てもらって、最後歩き始めたらイノベーションが起こっていましたということだと思います。

礒井:ありがとうございました。

次回は高橋さんにバトンを渡してお話しいただきたいと思います。

 (後編は、写真の後に続きます)

多種多様な人に集まってもらい情報を共有し、よりよい地域、社会へつなげていこうと始まったワークラボ八ヶ岳のイノベーション倶楽部。「たった1人から始めるイノベーション入門 後編」です。株式会社スマイルマーケティングCEOの高橋健三さんから、ゼロイチの発想をしやすくするために日頃からトレーニングやアウトプットの大切さを語っていただきました。

ビジネスは妄想の時代

高橋:竹林さんの起承転結の話でいくと僕は「起」の人間で、ゼロからイチを生み出すんですけど、その1を2にも3にも全然できない人間なのでそこは欠陥人間なんやとと思っています。

人と仕事をするのが向いていない。人の言うことを聞いてないタイプの人間なんです。それで43歳の時に1人で会社を作って現在に至ります。

具体的には企業でマーケティングの考え方や伝え方なんかをワークショップを通して教えています。よくどの業種の専門ですか?って質問されます。昔のコンサルは「物流業界に20年いました」とか「製薬業界に30年いました」とかいういわゆる物知りおじさん。でもマーケティングって万能で、業種を問わずいろんなところで使えるので、わざわざ「この業界です」と言うのは古いなと思ってるんで、返答に困っています。

新しいものを生み出すプロとして続けるトレーニングとは

今日の話は「プロは練習をしている。サラリーマンは土日も練習していますか?」と言う話なんですけど、

例えば大谷翔平選手とかがね、野球のシーズン終わったからって家でぼーっとビデオ見てるかって話です。トレーニングしてますよね。プロと呼ばれる人たちは日頃から心身共に鍛えているからプロというわけです。

では僕の場合どんな練習をしてるのか。

一つには日経MJ新聞の中から、ちょっと気になる4P戦略「Product(製品戦略)」 · 「Price(価格戦略)」 · 「Place(流通戦略)」 · 「Promotion(プロモーション戦略)」の記事を切り抜いて読んでいます。そうするとどの業界でどんなこと起こってるかのデータベースが頭の中にできるので、どんな業種から相談を受けても今こんなこと流行っているからこうでっていう答えが返せる。

あともう一つは普段から妄想するんです。妄想好きなので、1日1個ビジネスを考えるというのをずっとやっています。ビジネスっていってもビジネスモデルまでいかない思いつきなんですけど。

最近考えたのは、顔出し看板がはやってるなーと思って。昔は顔出し看板て観光地にあったんです。でも最近は普通のラーメン屋にもあるんですよ。茅野駅でも御柱祭っていうことで駅のところに御柱の顔出し看板がありましたよね。

他にもバレエの公演なんかをするフェスティバルホールのおしゃれな空間にもあったりします。ちょっと顔出し看板これからいけるんちゃう? 令和の顔出し看板みたいなのも妄想したりするわけです。

あとは男の日傘専門店。僕日傘使ってるんです。これだけ暑いと男でも日傘って大事なんです。でも男の人って日傘使ったことない人がほとんどだから選び方もわからないでしょう? だからそういうことを考えてる。

こういうことを1日1回考えて、月末にもう一回見直してみる。これならいけるんちゃうかーとか思うんですけど、妄想なんで全然いけないんですけどね。

インプットとアウトプットのバランス

あとは発信することも大事で、5日、15日、25日とテーマを決めて、マーケティングとか真善美とかテーマを決めてオンラインでアウトプットしています。大人の教養講座ということで、90分自分がしゃべるネタを準備する。インプットばかりだとバランスが取れないのでよくないんです。

それにアウトプットをすると、聞いている人の中にもっと詳しい人がいてこの本もオススメですよとか、ここにも行ってみるといいですよということになってまた新たなインプットにつながるんです。

実践したことでいうと2009年には大阪の下町のごちゃごちゃっとした場所を旗持って2時間くらい案内するのだとか、2011年くらいには農業がはやっていたんで自分でも枝豆とかトマトとか野菜を作ってみよう思ったんです。それで御堂筋の事務所でとれた野菜を持ち寄って収穫祭と称してみんなで食べてみました。

2015年には仏像カフェというのをやったんです。仏像見ながらお茶を飲む場所を作ろうっていう。仏像っていってもこれはフィギュアなんで安心です。このときは取材がきたり、岡山とか金沢とかめちゃくちゃ遠いところからお客さんがきたりした。なんでこんな遠くからきたんですか?って聞いたらこんなお店他にはないですからって。そりゃそうやなって思いました。

こんな感じで僕はゼロイチ好きなんで、たいがい新しいことはやりたい。でも形にして何人かから評価を得たら飽きてしまう。「承」や「転」の友達がいないので終わってしまうっていうことを延々やっています。

縄文型人間と弥生型人間、そして縄文型ビジネスとは

礒井さんとのご縁で茅野に来るのも3回目なんですが、縄文が好きなので、来る度に尖石を見にいったり、発掘現場を見て回ったりして茅野ライフを楽しんです。

それもあって最近は縄文型ビジネスってどういうことかっていうことを考えています。この縄文型ビジネスっていうのは僕が言い出したことじゃなくて、谷中修吾さんという方が「最強の縄文型ビジネス」って本を出版されているんです。

日本人は稲作を始めて2000年ほど経っているんですけれども結局今もやってることは弥生人と一緒。事業計画を立てて、隣の田んぼと比べて、こんな時期に水撒いたらあかんやろとか、もっと撒かなあかんやろとかコンプライアンスに縛られてる。そうしてどんだけ収穫を増やせるかってやってきた。米を作ってない人でもやっとることはそのままなんです。

竹林さんの話にもありましたけれども、世の中の仕組みとか法則とか価値観変わってるのにいつまで弥生人やってるんですかということなわけです。直感的、協調的、フリーダム、感謝型ということで、副業とかパラレルワークとか働き方もどんどん自由になってきたし、直感を信じて仕事ができたらおもしろいなと思いますよね。

僕から見て今の日本で縄文型やと思う企業がいくつかあります。

1つめは今治にある「池内オーガニック」っていうタオルの会社。100%オーガニックのタオルで赤ちゃんが食べても安全なタオルを目指しています。もともと今治タオルなんで当然今治タオルのタグをつけていたんですが、よくよく調べたらタグはオーガニックコットンじゃない。このタグをつけていたんでは100%オーガニックにならないということで今治タオルのタグをやめて池内オーガニック独自のタグをつけて売るようになった。今治タオルブランドのさらにその上をいってしまっているんです。

すると京都の高級料亭がおしぼりを作ってくれませんかとか、高級ホテルがバスローブを作ってくれませんかっていうようなスペシャルなオーダーが入るんです。

もう一つは中田工芸っていう木製ハンガーを作っている兵庫の豊岡にある会社です。JR西日本に「瑞風」っていう庶民には乗れないような高級列車があるんですが、そのクローゼットにも中田工芸が作るNAKATA HANGERが使われています。

きっかけは結婚式の引き出物としてゼクシィに載せたことでした。例えば木製ハンガーに結婚した日付とか入れてあげられるんです。ハンガーってどんな家でもどんな会社にもあるものなのに、ギフトとしてもらったことがないというところに着目したんですね。さらにハンガーを日本語に直すと服かけ。洋服の「服」を「福」とかけて「幸福をかけるハンガー」というストーリーもできているというケース。

これらの企業がなぜ縄文型かというと、自然をうまくビジネスのモデルの中に組み込んでいるということに気づきます。縄文人も当然自然の中で暮らしてきたということですから、そういうところが非常にかっこいいなあと思っています。

今日はせっかくなんで皆さんの縄文度をチェックしてみましょう。

各項目左に当てはまれば1点、右なら5点です。

  • 計画的か直感的か
  • 競争的か協調的か
  • コンプライアンス重視かフリーダムか
  • 期待型か感謝型
  • 前例主義か互換主義
  • 素養思考か教養思考か
  • 大集団タイプか小集団タイプ
  • 定量消化か定性評価
  • 損得か好き嫌いか
  • 消費思考か再生思考

左が多いほど弥生人型ですから、合計が10点代の人は弥生型ですね。20〜30点ははっきりせん感じで、40〜50点の人は縄文人です。これからもフリーダムに生きてってください。

企業の研修とかでやっても色ができて面白いんです。

デザイン会社さんとかフリーでやってる人は右寄りの人が多いでし、大企業は弥生型かハイブリッド系が多いというのも少し感じている。

 学び続け、妄想し続ける

最後に、最近「真善美」という言葉を知りました。西田幾多郎という日本を代表する哲学者が「認識上の真、倫理上の善、審美上の美」が人間の求める普遍な価値だ言っています。本当は人も組織もみんなそこに行き着きたいんやなと、これは大切やなと思いました。

それをするためにはリベラルアーツと呼ばれるような一般教養が必要です。例えば科学とか歴史とか民族とか信仰とか哲学とか芸術とか民芸とか産業とか。リベラルアーツというのはもっと広い意味なのでこれだけでは足りないんですが、興味のあるところから勉強していくことによって視野を広げる、視座を高める。そういうところから真善美とはなんなのかを普段から意識して普遍的価値というものにそういうものを求めていけたらなと思っています。

イノベーションのイの字も出てきませんけれどもこんな変な人がおるやなということを知っていただけたらと思います。

Q&A

―どう仲間を集めて行くか

竹林:発信をしていくのも一つ。実は巻き込まれるのも一つ。自分が発信してリーダーシップ取ってってやってたら疲れてしまうんで、他の人に巻き込まれてみるのも手。

案外もしかしたら僕らもゼロイチできていなくてそういう人の近くにいるのかもしれない。巻き込もうかといかに巻き込まれるかっていうのも次のポイントかなと思ってます。

 ―茅野、諏訪地域でイノベーションを起こすならどうすれば良いか

高橋:デザイン経営とかアート思考とか言われていますが、見えないものに答えを求めていかなければいけないと思ってます。まずはディスカッションが必要ですね。ないものを求めがちだけど、あるものを生かすことが大切。そういうところに集まる人の中には「起」「承」がたくさんいるけど「転」「結」がいないっていうパターンがよくあります。でもよく考えてみれば既存企業の中には転結がたくさんいますからそういうところとつながれる仕組みもデザインしつつ、たくさんの人とディスカッションすることが必要ですね。

竹林:洗剤は混ぜたら危険ですけどね、人は混ぜないと危険なんです。

【実施概要】

イノベーション倶楽部

『たった1人からはじめるイノベーション入門』著者、竹林一さんと語り合う会

ゲスト

竹林 一 (京都大学経営管理大学院 客員教授、オムロン株式会社 イノベーション推進本部 シニアアドバイザー)

髙橋 健三(株式会社スマイルマーケティング、なにわのマーケティングコーチ・CEO)

モデレーター

礒井 純充(まちライブラリー提唱者、森記念財団普及啓発部長、大阪公立大学客員研究員、経済学博士)

開催日:20227月23日(土)13:30~15:30

主催:茅野市コワーキングスペース「ワークラボ八ヶ岳」(指定管理者一般社団法人 まちライブラリー)

『たった1人からはじめるイノベーション入門』書籍はこちらから (amazon)