「ビジネスに必要なのは情熱。それと社会とのつながり」荻原毅(合同会社ルトーレプロジェクト 代表)

ワークラボ八ヶ岳では、2024年6月から創業・起業をめざす方を対象に、基礎講座と実務家をゲストに招いた実践講座で構成する「スタートアップスクール」を実施しました。
その中から、7月13日(土)にゲストに荻原毅さんを招いて開催した講座のレポートをお届けします。

荻原さんは、株式会社小林コーセー(現株式会社コーセー)で30年に渡り化粧品の研究開発に携わり、その後、独立してスペインでの化粧品素材としてのエキストラバージンオリーブオイルの調査をはじめます。そこで本物のエキストラバージンオリーブオイルに出会い、高品質な食用オイルの日本での販売とその健康効果の普及をめざした輸入会社を設立しました。

荻原さんがどのようにしてこの事業を手がけることになったのかを伺いました。また、参加者は、荻原さんが販売するエキストラバージンオリーブオイルの試飲も行い、その品質の高さを実感しました。

化粧品研究員とオリーブオイルとの出会い

合同会社ルトーレプロジェクトの荻原毅と申します。
青山学院大学理工科学部卒業後、小林コーセー(現在のコーセー株式会社)に就職し、化粧品の研究開発を30年やっていました。2010年に青山ビジネススクールのMBAコースを卒業して2011年に独立。現在は自分の会社で化粧品の開発支援の仕事をしています。
2012年、とある会社からエキストラバージンオリーブオイルを化粧品に配合したいとの相談を受けました。以前からオリーブオイルを化粧品に使われていましたが、その場合、成分表示には「オリーブ果実油」と書かれています。これは化粧品用に化学精製したもので、色もなければ匂いもない。化粧品の技術者たちは、化粧品の原材料としてはそれが当然だと思っていました。

化粧品の香料はすべて合成香料なんです。合成の方が、安全性を担保されてるんですね。香料というのは製品自体の魅力を上げるとか原料の匂いをマスキングするために使われるんですが、最近増えてきた「天然」「自然」を謳っている会社にしたら、合成だとすぐわかるものは基本的に使いたくない。その点、エキストラバージンオリーブオイルは、色も香りもあって商品の魅力になるんです。

本物のオリーブオイルとは?

IOC(国際オリーブ協会)のデータによると、我々が調査に行った2013〜14年の世界の生産量は、スペインが7割くらいを占めています。オリーブというのは隔年で実が多くつく種のため5年平均くらいで語られることが多いんですが、それでも4割がスペイン、次がイタリアで2割、ギリシャ、その他といった感じになります。
ヨーロッパの定義では、オリーブの実を化学精製せず、物理的な方法のみで絞ったもの。これを「バージンオリーブオイル」と呼びます。その中で科学的な分析で酸度が0.8未満のもの。そして官能評価試験でエキストラバージンと評価されたものだけがエキストラバージンオリーブオイルとして認められるんです。

エキストラバージンオリーブオイルを飲むと辛くて喉に刺激があります。これはオレオカンタールやオレウロペインというポリフェノールが入っているからなんです。ポリフェノールは抗酸化作用や抗炎症作用がありますし、飲めば動脈硬化の予防にもなります。またオリーブオイルにはオレイン酸が多く含まれていて、血中の善玉コレステロールを上げて悪玉コレステロールを下げる働きがあるほか、化粧品としては美白や抗酸化という効果が期待できるとされています。

衝撃のエキストラバージンオイルとの出会い

2011年8月、スペイン在住のオリーブオイルの専門家田中富子さんに案内してもらって、1回目の調査でスペインを訪れました。

1つ目はヘナベの搾油協同組合。そこは自社農園の他に120くらいの契約農家を持つ巨大な施設で、ものすごい生産量のあるところです。
2つ目はアンテケラという産地にあるFinca la Torreという工場です。ここは農場が特殊で、三方が山に囲まれているんです。当時すでに無農薬栽培が普及はし始めていましたが、当然すべての農場が無農薬なわけではありません。すると風に乗って別の農園から農薬が飛んでくる。採れたものを分析すると農薬が検出されちゃうんです。EUの基準では3年間検出がないことを前提に有機栽培と名乗ることができるので、この他の農園と隔絶した環境は貴重で、この時はちょうど有機の認証が取れて、これから搾油を始めようというタイミングでした。
最後に訪れたのはアリカンテにあったデオルテガスっていう農場で、ここは搾油工場があって非常に質も高かった。ただ、テイスティングはさせてもらえたが、農場は案内してくれなかったんですね。品質は悪くはありませんが、農園が固定されていないのではという懸念がありました。

1回目の調査から帰ってきた時点では決められず、実際に収穫・搾油しているところを見ようと、同じ年の10月にもう一度スペインを訪れました。オリーブは基本的にはその日の午前中に収穫して、どんどん工場に運んで搾油します。収穫から搾油まで6時間以上かかることはまずありません。オリーブオイルの品質はオリーブの実の品質はもちろん、搾油までの時間が短いこと、搾油の方法、保管方法に左右されます。すべてがベストの状態の時に最高品質のエキストラバージンオリーブオイルができるんです。
Finca la Torreにも搾油機が入っていて、テイスティングもさせてもらいました。そうしたら驚きましたね。思わず「えっ」て声が出た。まず工場に入った途端にオリーブのいい香りがするんですね。思っていたのとちょっと違ういい香り。そして飲んだらめちゃくちゃ辛くて、喉にポリフェノールの刺激があってむせちゃった。
とりあえずワンケース買って帰国して、オリーブオイルに詳しい人たちに食べてみてもらった。すると「見た目もグリーンだし、普段使っている(ARDOINO)とだいぶ違うよね」という評価で、ショッキングだった。それでこれ自体がビジネスになるかもしれないな。と思ったんです。
翌年も行ってみたら前年よりさらにいいものができていて、これはいけるぞと思いました。
実際、IOC(国際オリーブオイルカウンシル)の品評会で3年連続(2013〜15年)で「Mario Solinas賞」をいただいています。そのほかにも各国の品評会でも金賞を取るなど、高品質と認められていています。

自分に合ったビジネスの形と情熱

ここからはビジネスの話になりますが、いきなりは法人を設立するのは正直ハードルが高いとは思うので、個人事業主から入るのが一般的な流れかなと思います。

個人事業主は税務署で登録するだけ、費用もかからない。書類も自分で書けますし、税務署でも教えてもくれます。
それに対して法人は、さまざまな面倒臭いことがありますが、節税効果があったり社会的信用が得られたりします。私が選んだ合同会社という仕組みは登記や定款が必要で面倒な部分はありますが、株式会社よりは面倒くさくない。しかしどうしてこういう面倒な仕組みがあるのかというと、会社に継続性を持たせるために考えられたものと前向きに認識するといいと思います。それだけ会社を存続させていくのは大変だということです。

同時に、ビジネスに必要なのは情熱。それと社会とのつながりだと思っています。
何かのときに相談できる相手、それはお役所や商工会議所でもいいわけですが、できればその分野の専門家とつながるといいですね。あとは必ず伸びているマーケットを選ぶこと。僕が始めた2010年当時は、大手が品質の高いオリーブオイルを販売し出して、ここから伸びていくのではないかと感じさせるものがありました。今、日本の経済自体は縮小していますが、日本向けのビジネスがすべてダメというわけではない。ここだったら伸びるという可能性があるところに目をつけていってください。

スタータップスクール ゲストトーク
ビジネスは感動から始まった~驚きのエキストラバージンオリーブオイル~
2024年7月13日(土)開催より

文責:田中ゆきこ