「自分の手で家を建てたら人生が変わる」土谷昭司(有限会社 風の森建築 代表)

今回は自分の住む家を自分で建てるセルフビルドの経験者であり、現在は同じような希望を持つ人の応援にも力を入れている有限会社風の森建築の代表取締役 土谷昭司さんをお招きしました。自分で家を建てることの魅力や、人生や価値観に与える影響、セルフビルダーを支える会社経営について。さらにはこれからセルフビルドを考えている人たちにとってもヒントになる貴重なお話をたっぷりと伺いました。

節約以上の価値がある!? セルフビルドの魅力

こんにちは土谷です。あまり人前で話すことに慣れていないので、うまく運べるかどうかわからないんですが、よろしくお願いいたします。

もともとは栃木県に住んでいました。28年ほど前に原村に土地を買って、当時は週末になると片道5時間ぐらいかけて来て、作業終わってはまた自宅に帰るという生活をしていました。ここを買った当時はバブルこそ終わっていましたがまだまだ値段が高くて、土地を買ったら家を建てるお金がなくなっちゃったんです。そんなときにたまたまセルフビルドを提案している設計士さんを見つけて、これは面白そうだと思って、その人のプランのまま作りました。

当時提案されたのは、延べ床面積30坪ちょっと100平米未満の家がだいたい1200万円くらいで作れるっていうことでした。ところがご存知のように八ヶ岳界隈って最低気温がすごく下がるので、基礎工事の際は凍結深度といって相当深くまで掘らないといけないし、水道設備、これにとてもお金かかるんですよ。その辺が計算外で、結局全部で1500万ぐらいかかったのかなと思います。
やり方、作り方にもよるし、材料の仕入れ方にもよるけれど、だいたい2割ぐらい安くなる感じでしょうかね。安くなるのは大工さんや職人さんの手間賃の分だけなので、半値にはなりません。

でも自分で家を作ると、生きること自体にすごい自信がつくんですね。これができたならどんな職業でもやれちゃうし、どっかに所属しないで独立したまま生きていける自信がつくと思います。特に男性にとっては男性の株が上がるチャンスでもあると思います。都会の暮らしだとお金でなんとかなることも、セルフビルドやその後の田舎暮らしって、男性の方が向いてる作業がたくさんあるんです。もちろんお父さん以外の人にも手伝ってもらわないとならないので、セルフビルドは家族みんなでやることを提案しています。
家族でやるのをお勧めするのにはもう一つ理由があって、人間て、共通体験することによって共通言語が生まれると思うんです。共通体験がベースにないと、どんなに語っても理解し得ない。だから家作りじゃなくてもいいんですけど共通体験を大事にしていくと、理解し合える人間関係ができるんじゃないでしょうか?

ただ基礎工事だけはプロに頼んだほうがいいと思います。私も実際自分の家の基礎工事は自分でやったんですけれど、汲んでも汲んでも伏流水があふれてきて本当にめげそうになりました。やり方を教えることはできますが、よっぽど根性がなければプロにお願いした方がいいと思います。

家を建てたら、人生が変わった

自分の場合、人生の前半、すべてが違和感だったんです。社会の仕組みとかいろんなものに対する違和感が大部分を占めていて、仕方なく生きている感じがしていました。でも自分で家を作ることで「自分自身を生きる」っていう方向に180度転換することができたんです。急激な変化っていうのではなく、時間をかけて、関係する家族、仕事先みんなが納得して変わっていく変化。おかげでそれまで感じていた違和感はだんだんなくなっていきましたね。

なので、人生を変えたいと思ってる人がいたら、本当に小さな小屋でいいので、セルフビルドにチャレンジしてみてください。特に今はデジタルの世の中で、簡単に体験した気になれたり、行った気になれたりする。自分の肌感覚で行動することが本当に足りないと思います。家づくりというのはその対極で、やり遂げるか、挫折してしまうか。これはもう性別も年齢も関係なく、できるならやった方がいいと思います。

ぜ工務店を作ったのか?

はじめは1人だったので別荘の草刈とかを請け負う何でも屋さん始めたんです。そのうち仲間が増えてきたので、森の便利屋さん組合っていう組合を作りました。それを続けるうちに、どういう仲間と仕事をするかが大事だと思うようになったんです。やることが目的じゃなくて誰とするかってことが第1のキーポイント。さっきお話しした共通体験で共通言語が生まれるっていうことと一緒で、共通の言語が生まれる仲間であれば、何をしてもわかり合えるんです。
当時は一般の工務店がセルフビルドを支援することはほとんどなかったんです。なんでかっていうと、大変なんですよ。わからない人に説明したり材料も最初にドーンと置いてくるってわけにいかないので、相手のリズムに合わせて持っていったり、失敗しちゃったら同じものを運んだりもします。だから例えばセルフビルド応援を謳っていても、一定のところまでやったらあとはほったらかしという場合も多いんです。でもうちの場合は最後まで面倒を見ますし、事情があって工事を続けられなくなった場合には、その後を請け負うこともできます。

うちの会社のポリシーは、「エンパワーメント」です。権限移譲と訳される場合もありますが、うちでは「自分の中に力があるっていうことをに目覚めること」と捉えています。
うちの社員には自分で気づいて自分で行動してと促してます。敢えてノルマも課さないし、社員を管理しないんです。自分がどこ行って何をしたかを毎月報告してもらって、それに基づいてお給料を支払っています。これまでは学歴とか経歴が重視されてきたと思うんですけど、これからは違いに気がつけるような資質というか感性が求められる時代になってくる。気づいてそれを正すことによって、物事が潤滑に動いていく。そういう部分が重視される世の中になってきるように思います。
そうするとお客様も本当にユニークな方、自分の人生をちゃんと生きたいと思っている、ポリシーを持った方が多いように感じています。そういう方の要望にも応じて居心地のいい家を目指してやってます。

アートスクール、サービス付き高齢者住宅、そして八ヶ岳1000年の森

これからの夢もたくさんあるんですけど、まずは宝くじでも当たったら学校を作りたいですね。日本人特有の工芸品、ガラス細工とか木工、織物、編み物、それから音楽まで手が出るかどうか。そんないろんなことを教えるART-SCHOOLをやりたいです。

それからサービス付き高齢者住宅もやりたいと思ってるんです。そこに住みながら夜になると日替わりでママさん代わって飲み屋さんやるとか、縫い物が得意だったら洋服のリフォームとか、得意なことを人に教えるとか。納期に追われずゆったりとそんなことができる集合住宅というかそんなのがあったらおもしろいなと思っています。

もう一つは八ヶ岳1000年の森を作りたいです。人工物は作らないで、自由に行って散策できるだけの森を作りたい。そんないろいろなことを実現したいなと考えています。

meet up Lab⑨
「風の森建築」代表の土谷昭司さんが語る、“セルフビルド”のすすめ
2024年7月20日(土)開催より

文責:田中ゆきこ