【レポート】自分の強みを生かした異業種への挑戦と継続するマインドとは

meet up Lab第8回目のゲストは、ゴミ収集のお仕事から絵本作家、そして画家へと驚きの転職を遂げた画家のナオト(山崎直人)さんです。

ゴミ収集作業員から絵本作家を経て画家にたどり着くまで約10年。絵を描くと覚悟を決めてからの試行錯誤の日々や、作品に対するマインド、出会いを大切にする姿勢など、余すところなくお話して頂きました。

ゴミ収集作業員から絵本作家という異業種を志したきっかけ

ナオトさんは高校を卒業してすぐに、地元である尼崎市のゴミ収集の仕事に就職しました。

ゴミ収集の職場は、働いている人の年齢層が高かったこともあり、年配のスタッフに負担にならないように誰よりも早くゴミの回収をするため、日々走り回っていました。人のためになることに仕事のやりがいを感じていたナオトさんの日々走り回る姿は、地元の子どもたちにとって印象的だったようで、いつしかナオトさんに感謝のお手紙を書いて玄関先で待っている子どもたちもいらっしゃったそうです。

そんな子どもたちに、何か恩返しができないかと考えた際に、元々絵を描くことが得意だったこと、絵本だったら子どもたちが喜んでくれるのではないかと思い、絵本を描こうと決心したそうです。

退職後絵本作家を目指した試行錯誤の日々

ナオトさんは絵本作家になると決めてからは、ゴミ収集の仕事帰りに図書館に立ち寄り、ア行から順番に絵本を読み漁り絵本の研究をしていました。その過程で、絵を描くことに集中するために12年間続けたゴミ収集の仕事を退職する決意をしました。

1年は働かなくても生活できる程の貯金があったため、退職後1年間はひたすら絵を描き続けたそうです。これまで、絵を専門的に学んできたこともない状況下で、美大生や絵を学んできた人たちに少しでも追いつけるように、尊敬する画家や絵本作家の画集を購入し、ひたすら模写を続けた1年だったと言います。絵本の文章についても、「世界的に評価されている絵本は良い絵本に違いない」と思い、良い所を吸収できるようひたすら模写をし、どのような表現が伝わりやすいか、どんな印象を与えるか研究し続けました。

しかし、絵一本だけで生活していくのは難しく、食べていくためにはアルバイトをしながら絵を描き続ける日々だったと言います。

絵本作家から画家へ、長野に移住してからの心境の変化

アルバイトをする傍ら、絵本作家としてデビューを目指し、講談社の絵本新人賞に応募するなど挑戦を続けていました。その結果、第39回講談社絵本新人賞で佳作を受賞したそうですが、その時に感じたことをナオトさんは次のようにコメントしました。「”賞を受賞したからもう安心して絵本が描ける“という気持ちと、大賞受賞者が出版関係者に囲まれている姿を目の当たりにした時に、自分がやりたいことや表現したいことが出来なくなる気がしたんですよね。その時に絵本作家を卒業して、絵により集中しようと決めました。」

空気がきれいで自然が豊かな環境で絵を描きたいと思っていたそうで、2020年コロナをきっかけに長野へ移住しようと、農家で住み込みのアルバイトをしながら絵を描く生活を始めました。農家のアルバイトをしながら、絵を描く一方で、多くの出会いがあったと言います。住み込みのアルバイトでお世話になった農家さんからご紹介いただいた下諏訪のマスヤゲストハウスさんに滞在した際に、出会ったスタッフや滞在者の温かさに触れ、下諏訪に移住することを決めたそうです。

そして現在はマスヤゲストハウスさんの所有する倉をアトリエとして使わせてもらい、近くにアパートを借りて画家としての活動を行っています。昨年は5月、8月、12月と個展を行うため常に新作を描き続けるという慌しい一年だったそうです。

長野に移住した心境の変化として、自然豊かな風景を見たまま描けるという事や、人との出会いを通して足を運んだ先にある景色を描く事が、気楽に楽しく絵を描ける喜びを日々感じていると言います。

絵を描く上で大切にしていること

10年間アルバイトをしながら絵を描くという事を続けていたナオトさんですが、両立は簡単ではなく、精神的にきつい時期もあったそうです。それでも絵を描くという事は、大好きなゴミ収集の仕事を辞めてまでもやりたかったことだったため、辞めるという考えが浮かぶことはなかったと言います。

そんなナオトさんですが、絵を描くうえで依頼は断るようにしていると言います。依頼を受けると“良い絵を描かないといけない”、というプレッシャーや、描き切ってない絵に対して値段は付けられないという思いもあり、出来る限り依頼は受けないようにしているそうです。

「自分が気持ちよく絵を描くためにも、一生懸命描いた絵をお金で交換したくはないって思っています。大切な人や、お世話になった人たちには依頼されなくても“描きたい!”と思ったら寄贈という形でお渡しするようにしています。」

最後に、絵を描く上で大切にしているナオトさんならではの考え方をお話して頂きました。「“もしも世界で僕しか画家がいなかったら“と思いながら描いています。世界に画家が僕しかいなかったら、個性的な作風や、分かる人にはわかる!という絵ではなくて、絵に興味がない人にも関心を持ってもらえるような、みんなが楽しめる”良い絵“が必要だと思うんです。だからこそ、絵を描く上では誰よりも優れた絵を描こう!という気持ちではなくて、”良い絵に“していこうという気持ちで描いています。
そのためにも自分らしさを出せる状況でいる事が大事だと思っています。自分らしさが出せるのは、出会った方々のおかげだと常に思っていて、その感謝や思いを込めて描く絵だったら誰にも負けないと思いますし、自分が歩んできて出会った人たちのことを思いながら描く絵が“良い絵”なると思っています。ゴミ収集の時に出会った子ども達を思い浮かべながら、あの子たちがみたらどう思うかな?と思い浮かべながら描いています。あの時の子ども達といつかまたあった時に良い画家でありたいと思っています。」

参加者からのコメント(一部抜粋)

・競争相手は自分、世界に自分しか画家がいなかったら…今の自分に必要な考え方と出会えた気がします。自分の枠はこれからもどんどん広げていきたいけど枠にはめずに、自分に必要なもの、大事にしていきたいものを確立していきたいと思いました。

・人と絵に対する想い、自分に対する信頼や確信にとても感動しました。自分らしくいられる事、生きる事が大切だと改めて実感しました。貴重なお話ありがとうございました。

・ナオトさんの絵が大好きですが、ナオトさんのお人柄にもとても惹かれています。今日のお話を伺って、ナオトさんの子供である素敵な作品をより一層大切にしようと思いました。

左:ゲスト ナオトさん 右: 企画・コーディネーター 牛山直美さん

今後もmeet up Labでは、話題の事業や活動の舞台裏を掘り起こしながら、ご自身の活動やビジネスに役立つヒントを探し出せるビジネスネットワーキングイベントとして、継続してまいります。

次回をお楽しみに。