前編「地域らしさ」とは?〜茅野発ローカルビジネスの可能性イベントレポート

9月20日(金)に開催されたスペシャルmeet up Lab「茅野発ローカルビジネスの可能性ーわたしらしさ、地域らしさを考える」のレポートを、3回に分けて掲載します。

前編 「地域らしさ」とは?
中編 「ローカルビジネス」とは?
後編  壁を乗り越えて、やり続けるために

前編 「地域らしさ」とは?

田子直美:10回目となるmeet up Labでは、これまでにご登壇いただいたゲスト7名と、ワークラボ八ヶ岳に所縁のあるお二人を加えて、みなさんと意見交換をしながら「茅野発ローカルビジネスの可能性」について、何か生み出していきたいと思っています。

ゲストは以下の方々です。

山越典子  (株)のちのち代表取締役、藤森建築宿泊施設「小泊Fuji」オーナー

向井啓祐  古着屋LAGOM代表、「蔵市」仕掛け人

大塩あゆみ 「あゆみ食堂」オーナーシェフ

齋藤由馬  (株)エイトピークス代表取締役、茅野ブランド「8Peaks BREWING」

小泉恭子  ハンドメイド作家、インスタグラマー(フォロワー2万人)

武居章彦  「二十四節氣 神楽」、バウムクーヘン工房「結びの木」店主

土谷昭司  (有)風の森建築 代表、「セルフ de ビルド」運営

橋本芳裕  (株)IKI&IKI代表取締役、人材育成・キャリアコンサルタント

宮木慧美  (一社)KOKO代表理事、探究コーディネーター

グラフィックレコーディングは、三澤好美さんです。

進行は、meet up Labの企画・コーディネーターを務める、田子(牛山)直美です。

では、はじめに、この地域で活動するにあたって大事にしていることや工夫していることなど、「地域ならでは」という視点を交えて、お一人ずつご自身の活動をご紹介いただけますか?

田子直美(進行/企画・コーディネーター)

山越典子:私は、1日一組限定の「小泊Fuji」という宿泊施設を運営しています。

設計は、茅野市ご出身の建築家、藤森照信さんです。藤森さんにお願いしてからこの建物を建てるまでに13年かかっていて、昨年ようやくオープンしました。

まさに田舎の原風景のど真ん中に佇む宿です。

私は、この地区に住んでいる方々に自分たちの地区の良さを再発見していただく機会になればいいなあと思っています。

宿では主に都会からお客様がいらして、田んぼを散歩されたり、お子さんがトンボを追いかけたりして、のんびりと過ごされます。

地区の方が、こうした様子を見て改めてここの良さを感じる、そんな活動にしていきたいと思います。

また、オープンして1年経ちましたので、お客様がこの地区をどのように楽しんだのかお客様からのアンケートをまとめたり、藤森さんが雑誌のインタビューで「こんな景色はもう残ってないよ」とここの良さを語る記事を集めて、地区の方々に見ていただける機会をつくりたいと思っています。

山越典子  (株)のちのち代表取締役、藤森建築宿泊施設「小泊Fuji」オーナー

向井啓祐:茅野駅の西口でLAGOMという古着屋を経営しています。

そして、駅前に文化を創ろうとイベントを仕掛けています。

3、4年前からインスタグラムでコンテンツを発信したりして古着屋への集客を頑張ってきましたが、でも、それだけじゃあ街は元気にならない。

茅野は、山や湖といった観光資源は豊富ですが、駅前には全くありません。そこで、昨年4月に「蔵市」というイベントを始めました。

いま2ヶ月に1回のタイミングでキッチンカーを呼ぶなどのイベントを行ない、文化づくりのきっかけになればと思って活動しています。

向井啓祐  古着屋LAGOM代表、「蔵市」仕掛け人

大塩あゆみ:諏訪市にある宮坂醸造(真澄)のすぐ前で「あゆみ食堂」という飲食店をしています。

ここに来るまでは東京で8年ほど料理研究家として仕事をし、ケータリングも行っていました。

みなさん野菜を扱うのが大変のようで、同じ料理法で同じ味になってしまうと聞きます。私は、野菜をこれまでとは違う方法で扱い、誰にでも開かれた食堂をやりたいと思って始めました。

オープンしてまる5年経ち、子どもからおばあちゃんおじいちゃんまで本当に幅広い世代の方に来ていただいて、思いが実現できているかなと感じているところです。

正直、「地域」を意識して始めたわけではないのですが、お客様からは「こんなに美味しいお野菜を食べたことがない」と、すごく言われます。

全部、みなさんの家の近くにあるもので、特別なものはほとんど使っていないし、調味料もスーパーで買えるものです。ちょっとした調理方法や野菜の切り方などで変わってくるのかもしれません。

「産直野菜を買ってみよう」という声を聞き、地域の方はこんなふうに感じているのか、という気づきがありました。

大塩あゆみ 「あゆみ食堂」オーナーシェフ

齋藤由馬:茅野市の北山で「8Peaks BREWING」という地ビールを製造しています。

会社はおかげさまで今年7期目になり、令和5年の4月には蓼科に新工場を構えました。

ビール産業は設備産業なので、昨年、いい設備を入れて、ようやく食品メーカーとして本格的なスタートをみることができたと思っています。

「8Peaks(エイトピークス)」という名称も八ヶ岳からお借りしました。「8Peaksのビールを飲むために、ここ八ヶ岳に来た」と言われるような存在であり続けることを会社の理念に掲げてます。

ビールを通して、「八ヶ岳いい」と明確に言わせたい。八ヶ岳でビールを飲みたいと思ってもらえるような時間と空間を提案していきたいと考えています。

お客様は、ここに時間とお金をかけて来ているので、ただビールを売るだけじゃいけない。経営者として、ビールが美味しいシチュエーションやビールを消費する過程に対してもコミットしています。

例えば、バスで蓼科湖や白樺湖に行って、カヌーを楽しんだり美味しいお昼を食べたりして、最後は温泉に入ってビールを飲む、といった最終的にビールがうまい!と思える体験に向けた顧客動線までも提案できると、時間とお金をかけて来る明確な理由の一つになるんじゃないかと思っています。

齋藤由馬  (株)エイトピークス代表取締役、茅野ブランド「8Peaks BREWING」

小泉恭子:ハンドメイド作家として「ビーズクロッシェ」というアクセサリーを作っています。

前職は鍼灸師として一人で開業していたんですが、コロナや結婚を機に、前々から好きだったものづくりの仕事がしたくなったんです。

緊急事態宣言でずっと家にいて、自分は何ができるかと思い悩んでいました。それで、インスタグラムをものすごく勉強して、3ヶ月ほど毎日、鬼のように発信したんです。

ライブ配信やストーリーズを使って、大袈裟ですが“命をかけて”やったところ、すごく認知を広げることに成功して、ハンドメイド作家としてちゃんと食べていけるようになりました。

それから夫婦2人で長野に移住し、いま、新たにSNSを使って地域に役立つことができないかと模索中です。

インスタグラムの使い方を教えたり、地域の良さを発信し、地域を活性化するような活動もしていきたいと思っています。

小泉恭子  ハンドメイド作家、インスタグラマー(フォロワー2万人)

武居章彦:諏訪大社の秋宮前で「二十四節氣 神楽」という和食店と、その隣に、昨年3月には米粉を使ったバームクーヘンのお店「結びの木」をオープンしました。

二つのお店ともに共通して「花を添える」という理念を大切にしています。

お客様がここまで旅をしてきた時間、あるいは食事の時間、さらにはお土産をご自宅でご家族と一緒に召し上がっていく時間に、僕らのサービスや商品が、花を添えられるような存在であってほしいということ。

そして、僕ら自身にとっても、働いている時間そのものが人生にとっての花でありたいという気持ちです。

小さい店ですが、地域にとっても小さい花のような存在でありたい。そんなことを常日頃考えながらあの仕事をしています。

大切に思っていることは、「他と違うことをしよう」ということです。僕らの店で何ができるか、ということを常に考えて仕事に臨んでいます。

例えば、調理方法や盛り付けはもちろんですし、バームクーヘンも、諏訪地域に他にお店があれば僕は作らなかったと思います。御柱を崇める諏訪大社の前にお店がありますから、「樹木のケーキ」と言われるバームクーヘンは、親和性やストーリー性がある商品だと思っています。

武居章彦  「二十四節氣 神楽」、バウムクーヘン工房「結びの木」店主

土谷昭司:原村で「風の森建築」という建築会社をやっています。八ヶ岳に来て約30年になります。

ハウスメーカーが使うような合板材や修正剤、ビニールクロスなどを使わず、無垢の木と漆喰や和紙などを使って家をつくっています。

長持ちする家、20年経ってもゴミにならない住宅、50年、100年と受け継がれていく家づくりを心がけています。とっても儲からないんですが(笑)。

私が自分の家を自分で作ったことがきっかけでこの業界に入ったので、みなさんにも「セルフビルド」といって自分で自分の家を作って欲しいという願いが根底にあります。

私はこれによって人生が変わりました。一人一人の中にある本来持っている力を引き出すのがセルフビルドの体験だと確信を持っています。「エンパワーメント」だと思っているんです。

私は、地域らしさを出すことより、八ヶ岳の空気や景観、水といった自然の恩恵に、いま、たっぷりとあずかっていると感じています。だから、自分が受けたものに対して恩返しをしたいと考えています。

土谷昭司  (有)風の森建築 代表、「セルフ de ビルド」運営

橋本芳裕:キャリア支援、企業の人事支援をする株式会社IKI&IKIという会社を経営しています。

いま、9割が企業の採用支援の仕事です。やはりこの地域で人材が採用できないという会社が非常に多いです。

一方で、求職者からは、どんな会社に入ったらいいかわからない、入った会社でセクハラなど酷い扱いを受け、どうしたらいい会社に巡り会えるのか、といった相談を多く受けます。

いい会社は採用の仕方がわからない、いい人材は企業に巡り会えないというマッチングミスが、この地域で起こっていると感じました。

このミスマッチを解消しようと、昨年、茅野駅前で「KiiTOS(キートス)」というカフェを始めました。

特徴は、キャリア支援を行っていることです。カフェなので誰もが自由に飲食ができます。かつ、会員登録していただくとWi-Fiやコンセントがついたカフェスペースを無料で使うことができ、キャリア相談ができます。

高校生、専門学校生、大学生も利用できます。いまでは1日4件ほどキャリア相談が来るようになり、私たちがサポートして会社を紹介しています。

また、IKI&IKIとは別に、今年の1月には「ウッドランド」という新会社を設立し、地域創生や地域を盛り上げることを目的に、企業のスタートアップや開業支援などを行っています。ゆくゆくは、駅前に登山者をターゲットに宿を作りたいと思っています。

橋本芳裕  (株)IKI&IKI代表取締役、人材育成・キャリアコンサルタント

宮木慧美:一般社団法人KOKOという団体の代表をしております。私たちは、高校生の探究学習支援をしています。

2022年から学習指導要領が変わり、全国の高校で「総合的な探究の時間(探究学習)」が必修となりました。探究学習は、生徒一人一人が自分自身の興味関心や課題意識から“問い”を立て、学びを深めていくものです。

私たちは、高校の現場に入り、学校の先生方と一緒に授業を作るなどして進めています。今、松本市内の5校で取り組んでいます。

みなさんの中に長野県出身の方はどれくらいいらっしゃいますか?半分くらいでしょうか。

長野県内の高校に通う生徒のうち、約7割が卒業後に県外に流出してしまうというデータがあります。

子どもたちが県外に出てしまった後で、「地元に戻ってきてよ」とアプローチしてもそれはなかなか難しい。これが長野県に限らず全国の地方都市の課題かと思っています。

これに対し、高校時代、地元にいるうちに地域の良さや魅力、素敵な大人がいることを、ぜひ、たくさん知ってもらいたいと思っています。

県外に出ていくことは決して悪いことではありません。地域にも選択肢があることを理解した上で、自分の生きていく「道」や「型」を獲得して欲しいという願いを持って私たちは活動しています。

また、このような考えに共感していただける方を増やしていきたいとも思っています。

宮木慧美  (一社)KOKO代表理事、探究コーディネーター

オープンワークラボ スペシャルmeet up Lab
“茅野発”ローカルビジネスの可能性ーわたしらしさ、地域らしさを考える

日時:2024年9月20日(金)18:00-20:00
会場:ワークラボ八ヶ岳
主催:ワークラボ八ヶ岳(一般社団法人まちライブラリー)
後援:茅野市
https://wly.jp/topics/920meetuplab/